世界で最も多くの日本人選手がプレーする海外リーグであり、日本での注目度も年々高まっているサッカーのタイリーグ。今年は選手のみならず日本人の監督も次々誕生している。今回はそのなかの一人、ランシットFC・丸山良明監督のインタビューを3回に分けてお届けする――。
チームに感じる「タイ社会の縮図」
――日本の監督のように思ったとおりのチーム作りができない、ということですが、それがタイサッカーの特徴でもあるんでしょうか。
「監督になってよくわかったんですが、たぶん当たり前にタイの社会にあることなんだろうと思います。
自分たちの約束事を決めて、たとえば『ハードワークしないやつは使わないよ』と言っているところへ急にそぐわない選手が入ったら、言ってることとやってることが違う、となりますよね。
でも、上からの指示であれば使わないわけにはいかないし、その選手を使った結果ダメならば、またいろいろと起きてくる。そんななかでちゃんと向き合って、こいつは信頼できる、と思わせなきゃいけない。
『タイ社会の縮図』なんだろうと思いますが、日本の感覚ではできないところの、スタンスの難しさがありますね」
若い選手たちの多いランシットFC「毎日、何か予想外のことが起こる」
――日タイの文化的な違いによる難しさは選手時代から感じられていたと思いますが、監督という立場で新たに見えてくる面もあるわけですね。
「本当に毎日、何か予想外のことが起こるので難しいですね。たとえばグラウンドが使えない、バスがない、選手が来ない、急にコーチが変わる…。
基本的にはトップのバンコク・グラスに選手を送り出すのが目的のチームなので、選手たちは若く大学生が多い。彼らはなぜか大学のチームにも在籍していて、大学の試合があるから来られない、というようなことも多いんです。
試合も急にカップ戦の予定が入ってきたり、予定外のことがとにかく多い。ただ、選手たちには『ピッチではいろんなことが起きる』と常に言っていますし、自分たちがパニックになってもいけませんからね。できることをやろう、と。
育成と結果を両立させる難しさ
――トップチームに選手を送り出すという目的があるなかで、チーム作りや結果との両立が難しいところもあるのではないですか。
「チームからは『選手をトップに昇格させるのが仕事』と言われていますけど、それは表向きで、勝たなければたぶん僕らがここにいられない。
日本みたいにコンセプトがあって、ここまでは我慢するよ、というのはないですからね。それは、タイに5年もいるのでわかっていますから。
実際、すでに期待していた選手が一人トップに抜かれている。それがミッションなのでいいんですが、でも勝たないと…という思いとの狭間で、という感じですよね」
(第3回につづく)