「一目見て、この人と結婚しようと思った」
バンコク・スクンビット地区にある住宅街で、日本人の母子らにアクリル画を教える阿部さんは在タイ17年。高校生を筆頭に2人の子供の母親でもある。
大分県生まれ。福岡県のデザイナー学校を卒業し、イラストレーターとして働いていたとき、九州大学でバイオテクノロジーの研究をしていたタイ人の夫と運命的な出会いをした。
「一目見て、この人と結婚しようと思った」と阿部さん。最後には夫が「根負け」し、タイでの新婚生活がスタートした。「私って、ストーカーだったの」と愉快に笑う。
アクリル画家としてタイで独立
当初は夫の実家に同居。ところが絵を描くことへの価値観の違いもあり、両親から「働きに出なさい」と言われたことも。
試しに電機メーカーでセールスの仕事に就いたが、ストレスが高じ、間もなく退職。「やっぱり絵を描いていたい」と、月3000バーツの安いアパートを借り、そこをアトリエに〝出勤〟するようになった。
環境が落ち着くと次第に仕事も舞い込むようになり、バンコクでたびたび個展も開催。アクリル画家として知られるようになると、今度は指導の依頼が飛び込むようになった。
「最後まで諦めない」ことが大切
タイに来たばかりのころは、まさか人に絵を教えるなんて考えたこともなかった。今では発想を変え、仲間を増やすつもりで週に4日、約60人と自宅でキャンバスに向かっている。
自分自身、彼らからもたくさんのものを学ぶ。ライバルと言っていい。刺激の連続が、新たな創作意欲を沸き立ててくれる。
伝えたいことは簡単なこと。「最後まで諦めない」。絵を描くうえで手を抜いて満足のいくものが出来るはずがない。小さい頃から、そう教えられることが大切だと思っている。
今年は「希望の壁画プロジェクト」に参加も
描きたいものは「タイのすべて」。模様も色遣いも自分にぴったり合う。「ここが私の住むところ!」と感じたかつての印象は間違っていなかった。
「絵は私の日記帳。感じたこと、思ったことを感じるままに描いていく。それができる環境にいることができて、私は幸せ」。だから、タイに感謝してやまない。
ふるさと日本のことも忘れたくない。巨大津波に襲われた東北地方。今夏にも始まる「希望の壁画プロジェクト」に参加、43メートルの巨大壁画にチャレンジすることにしている。「被災地の子供たちに笑顔を届けたい――」
タイで在留届を提出済の日本人は最新の2012年統計で約5万人。企業などの駐在員や永住者、その家族などが多くを占め、滞在する男性の多くが仕事を持って暮らしている。女性についてはビザの関係から就労が難しいと一般的に理解されているが、実は「働く」女性は決して少なくない。新企画「タイで働く女性たち」では、タイで仕事やボランティア活動などに就き、活躍する女性たちを追う。