天然ゴム価格の急激な下落が生産農家の経営を直撃している。投機的な市場の動きもあって最高値を記録した昨年1月に比べ50%を超える大幅ダウン。タイはかつてのマレーシアから代わって世界トップに成長した天然ゴム生産市場(シェア約40%)。それだけに影響も大きく、中でも近年、植林が進んだタイ東北部(イサン)地方の農家では、ゴムの採取を一時見合す動きさえ出ている。
カンボジア国境に近いタイ・サケオ県。生産農家のプアさんは、このところの価格下落に困惑顔。天然ゴムの取引額は、2011年1月に1ポンド(約453グラム)280米セント台だったのが、今年5月には150セント台に大幅下落。納入先からは買取金額の引き下げを求められ、渋々、応じることにしたという。今後の取り引きを考えると、「応じざるを得なかった」と肩を落とす。
知り合いの生産農家でも、値下げ要請から採取を一時見合わせたり、回数を減らすなど対策に乗り出したところも少なくないという。タイ政府も減産策を打ち出しているほか、業界団体が輸出にかかる減税を政府に求めている。
天然ゴムの価格上昇は2002年ごろから始まった。自動車大国に成長した中国によるところが大きいという。タイヤの原材料として欠かすことのできない天然ゴム。中国は世界最大のゴム輸入国となり、10年にはタイからの総輸出量の40%を占める120万トン余りが中国に渡った。
これに目をつけたのが、投資先を探していた投機マネー。あっという間に天然ゴムの取引価格は高騰し、マネーがマネーを招く結果となった。2010年から11年初めにかけて取引価格が2倍近くに急上昇したのは、こうした背景があった。
ところが、中国の自動車需要も頭打ちとなったことから、ここにきて販売台数も低迷。値下げ競争の激化もあって、急速にゴム価格が低下する事態となった。すでに中国国内のタイヤメーカーでは大幅な生産調整に乗り出したところもあるという。
もともとタイでは、天然ゴム生産はマレー半島南部が中心だった。ところが、国際的な取引需要が増したことから東北部イサン地方でも植林が進められ、一大産地となった経緯がある。乾燥した痩せた土地が多いイサンを巻き込んだ形となった今回のゴム騒動。出口はまだ見えていない。