日本人デザイナーである稲吉紘実(いなよし ひろみ)氏によってデザインされた、プミポン前国王(ラーマ9世)の名刺がある。
2002年にプラザアテネホテルで開催された国連関係の展示会での作品が、タイ王室庁関係者の目に留まったことがきっかけで、生誕75周年を記念して国王に献上するための作品を創ることになり、最終的に4タイプの”国王の名刺“をデザインするに至った。


デザイン1:『A』
コンセプトは、ラーマ9世のお名前である、“アドゥンヤデート”(ラテン文字表記では “Adulyadej” )の頭文字『A』である。
デザインの内部には、色付きの円が配置されているが、これは9種の宝石をイメージしており、国王のシンボルである。
デザイン2:『合掌』
コンセプトはタイ人の合掌。それは、タイ人であることを伝えられるアイデンティティである。同時に、デザイン内部には9種の宝石を表す色の円がずらりと取り囲んでおり、タイの国王であることを伝えている。
デザイン3:『サクソフォン』
コンセプトは、プミポン前国王が特に好んでおられた楽器、サックスである。そして、9種の宝石が同様に国王のアイデンティティを表している。
デザイン4:『B』
コンセプトは、お名前 “プミポン”(ラテン文字表記では “Bhumibol”)の頭文字『B』であり、ガルーダの羽の形になるようにデザインされた(ガルーダとは、タイ国王の紋章にも用いられている架空の大鳥)。
内部に9種の宝石の色が入ることで国王のアイデンティティを示しており、また、全てのデザインが同じ方向性となるようになっている。

この『国王の名刺』の特徴
特筆すべきなのは、今回の名刺のデザインが、一般的な名刺に見られるような、文字によって言葉の意味を伝えることよりも、シンボリックなビジュアルに重きを置いていることである。
稲吉氏の説明によると、実際、国際的な名刺デザインは、文字よりもシンボルを用いる方が好まれるとのこと。
自身の名前が大きく印刷されることは好まれず、文字はデザインとして出てくるだけで、言葉を少し伝えるに過ぎない。特に国王の名刺となれば尚更、お名前を強調する必要はなく、住所や電話番号を載せる必要もない。タイの国王であるということが伝われば十分なのである。
シンボルがデザインされたこの名刺は、個人的な利用を目的としており、公式なものではない。なぜなら公式なものとしては、国王の印章、或いは各種記念におけるシンボルマークが既にあるからである。
こだわりの印刷方法
今回のシンボルをデザインする中で特に意識していたことは、その印刷方法である。目新しくなるような技がなければならず、また高度な印刷となるよう、色や用紙、印刷機の選定など、印刷方法はかなり凝ったものとなった。
名刺の印刷プロセスは、ベースカラーを先に印刷し、それから箔を使って最後の仕上げを行う。9種の宝石の部分は、全部で18色印刷しなければならなかった。最初に9色印刷して、二度目にもう一度9色を上に重ねて印刷する。思った通りの色が出せるまで、校正を12回も行わねばならなかったそうだ。
Source: praew