みなさんは、外国人技能実習制度と言う言葉をきいたことがありますか?

実習生は、テレビドラマなどで時々取り上げられ、「悪徳業者にひどい目にあわされるかわいそうな人たち」という設定で語られることが多いです。

2013年に放送された、竹内結子の「ダンダリン」でも同様の設定でした。悪徳工場主が実習生たちの自由を奪い、時給400円で、死ぬほど残業をさせる。そして、タイ人の労働者が竹内結子の手渡すトムヤンクンを食べて、「アロイ メー(おいしい、お母さん)」と叫ぶ。そして、最後には竹内結子が悪徳業者をやっつけるという、感動的なドラマでした。もちろん、ドラマはドラマですから、これを信じる人はいないと思います。では、実態はどのようになっているのかを、ご紹介していきたいと思います。

外国人技能実習制度とは

技能実習制度は、最長3年の期間において、技能実習生が雇用関係の下、日本の産業・職業上の技能等の修得・習熟をすることを内容とするものです。受け入れる方式は、企業単独型と団体監理型に大別されます。(JITCOホームページより)

簡単に言うと、外国人を3年間日本で働かせて、「技術を教える」制度です。受け入れる方式は、2つあるのですが、団体管理型がほとんどですので、こちらについて説明します。

外国人技能実習制度の「登場人物」

この制度を説明するには、以下の5つのグループについて知ってもらわなければなりません。

1.日本政府 
日本政府はJITCO(公益法人 国際研修協力機構)を通して、この制度全体を管理しています。

2.外国人技能実習制度を使って日本で働いている実習生(以下、実習生)
ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイの5か国からの入国がほとんどで、約20万人が、日本で働いています。

3.管理団体 
実習生を日本に受け入れるのは、この管理団体です。各地の商工会や中小企業団体などが、認可を受けて監理団体となります。実習生はここの管理を受けて実習実施機関で働きます。

4.技能実習を実施する各企業等(実習実施機関 以下、会社)
日本の企業で、実習生が実際に働く日本の会社のことです。

5.送り出し機関
各国にある団体で、海外から実習生を日本に送ります。具体的には、実習生の選定(面接)、日本語を教える、会社で働くための研修をする、日本への入国手続き、などを行います。

送り出し機関

なぜ技能実習生は3年間で帰国するのか?

1980年代から、日本では単純労働者(いわゆる3Kの職場で働く人たち)の不足が表面化してきました。しかし、日本政府は外国人単純労働者に正規の労働許可(ワーキングビザとワークパーミット)を発行しませんでした。労働現場から強い要請があり、政府は労働力の確保のため、ブラジルなどの日系人の日本での労働を緩和させました。また、実際の現場では、日系人だけでは足りないので、観光ビザで入国したアジアからの不正労働者で補っていました。

当初労働力不足がなんとか解消され、順調のように見えたのですが、別のところで問題が発生しました。それは、長期滞在する外国人たちが、家庭生活を日本でするようになり、教育・福祉の分野で問題が起き始めました。特に教育現場では、日本語が苦手な小学生、中学生の問題、更には、その保護者とのコミュニケーションの問題など、多くの問題を生み出しました。

日本政府としては、「労働力はほしい」しかし、「長く日本に住んでもらっては困る」と考えました。

そこで頭のいい人が思いついたのが、現行の「中小企業団体等による外国人実習生の受け入れ」でした。(1990年) つまり、3年間ごとに入れ替わる(日本に長く住まない)、単純労働者の確保に成功したのです。そして、不法労働者を一気に日本から追い出しました。

実習生はなぜ日本へ行くのか?

日本政府は外国人実習生を奴隷のように扱う制度を設定し、その制度を使って悪徳中小企業が「哀れな仔羊のような外国人」を食い物にする。このようなステレオタイプの発想は、私からすると、「頭が悪い」としか思えません。

これほどネットが発達した世の中で、ただただ「奴隷」になるために、日本へ行く外国人はいません。彼らなりに十分な計算があるからこそ、日本へ行くのです。もちろん、彼らの目的は「お金」です。自分のため、親のため、家族のためにお金を貯めたい、お金を稼ぎたいために、日本へ行きます。

タイで失業率が低い理由

私はタイの田舎に住み始めて、5年以上経ちます。田舎で生活していて思うことは、普通のタイ人には、「仕事がない」ということです。ちなみにインターネットで調べると、タイの失業率は2011年以降1%を切っていて、昨年(2016年)は0.75%(日本は3.11%)です。なぜこのように低い数値が出るのか、日本の内閣府の調査では21ページにも及ぶ長い報告書を作成しました。そしてその詳細な検討の結果「わからない」そうです。(内閣府経済社会総合研究所 2012年)

タイの田舎の生活

私の考えでは、田舎の人は仕事がなくなると「家族」(親戚、友だちなどを含む)の仕事を手伝うからだと思っています。そして、少しのお小遣いをもらいます。住むところがなくなれば、「家族」のところに転がり込みます。ダブルベットが1つしかない部屋に、なぜか3人ぐらい住んでいるのもよくあることです。よく言えば相互扶助の精神が発達している、困ったときはお互い様精神が旺盛です。

食事も同じで、「私のものはあなたのもの、あなたのものはわたしのもの」精神が行き届いています。タイの田舎の人はごはんを食べるとき、たとえばガイヤーン(鳥の丸焼き)なんかを食べるとき、「むしり」ながら食べます。一片を手にもって「かじる」人はほとんどいません。みんなで食べるからです。このような生活は、タイ人にとってそんなに特別のことではないようです。

しかし、何かの理由でどうしてもお金がいる、「家族」の中で誰も稼ぐ人がいない、などの問題が発生することがあります。そうなって初めて、「家族」の中の誰かが、出稼ぎに行くのです。

タイの田舎と私が働いている大学
タイの田舎と私が働いている大学

出稼ぎに行くための壁

私は田舎の高校を卒業した人を、日系の工場に就職させようとしたことがあります。「お金がなかったら、働けばいい」と考えたからです。しかし、これは思わぬ問題がありました。

働きに出るためのお金がないのです。

もう少し正確に言うと、最初の給料がもらえるまでの生活費がありません。田舎から都会(バンコクやチョンブリーなど)に出ていくと、知らない人ばかりで「家族」がいません。工場で働き始めれば、最低1万5千バーツほどの給料は手に入るのですが、その生活を手に入れるまでのお金がないのです。そして、そこに登場するのが、タイ人にとっての外国人実習制度です。「家族」の代わりに、給料をもらえるまで、何とか道をつけてくれる人がいるのが、この制度の良いところです。

日本に行くまで

田舎のタイ人が、外国人研修制度を利用して、日本で働こうと思ったら、通常次のような手順を踏みます。

1.インターネットで徹底的に調べる
タイ人が最も大切にするのは、「口コミ」です。タイのレストランで中途半端な店は少ないと思いませんか?流行っている店は、つねに大混雑なのに、流行っていない店はずっとお客さんが来ないのが、タイでは普通です。タイの人は、どんなに企業から宣伝されても、口コミの評判が悪い店には絶対行かないからです。仕事も同じで、「あの会社(店)で働くのは良くない」となると、誰も働かなくなります。

そんな彼らですから、ネットの情報やフェイスブックなどを最大限利用して、情報を集めます。そして、有利な条件で働けるか場所を徹底して探します。何を探すかと言うと、日本に派遣してくれる会社(以下、送り出し機関)です。

2.送り出し機関が見つかったら面接
タイには多くの送り出し機関があります。その送り出し機関は、日本にある管理団体と契約をします。実習生になりたい人は管理団体と、実習実施機関(実際に外国人研修生を使う日本の会社、以下、会社)の人の面接を受けます。面接の内容は、会社の職種によって様々です。性格の適正以外にも、お箸でモノをつかむテスト(総菜屋さん)、木をのこぎりで切るテスト(建築関係)などもあります。

送り出し機関での授業風景  座学で日本語の基礎をしっかり勉強します。
送り出し機関での授業風景  座学で日本語の基礎をしっかり勉強します。

それに合格すると、入国許可がおりるまでの約6か月間、実習生たちは送り出し機関に併設されている学校で、会社で働くための知識と日本語を学習します。実習生が学校で勉強している間、送り出し機関と管理団体が共同して、実習生の入国手続きを行います。研修生たちはこの期間を使って、日本に行く準備をするのです。

食品関係の会社に派遣される女の子たち。 ちゃんとタイマーで時間を計りながら練習します。
食品関係の会社に派遣される女の子たち。 ちゃんとタイマーで時間を計りながら練習します。

3.日本への入国、彼らの夢は50万バーツ
日本へ行く前の実習生は、日本で滞在する3年間がどのようなものになるか、だいたいの想像はついています。他国の工場で働くわけですから、楽なわけはありません。しかし、現実問題タイの田舎にいて手にできるお金は、月に1万バーツがいいところです。田舎で月に2万バーツ以上の給料の人は、公務員か学校の先生ぐらいです。

普通のタイ人は、貯金がありません。貯金ゼロの人が48%ぐらいいます。学生の話ではありません。いい年をした大人を含めて48%が貯金ゼロなんです。そんな彼らの目標は、「50万バーツ(約150万円)日本でためて帰ってくること」です。タイの田舎では、3年で50万バーツを貯めることは到底不可能です。

しかし、日本に行けば、それまでの借金(日本へ行くためのお金など)を清算して、更に50万バーツ(月給の50か月分)が貯金として残る、という夢も希望もある話です。だいたいこのような過程を経て、タイ人は日本へ旅立っていきます。そして、今日も日本のどこかの工場や建築現場で働いているのです。

「悪徳」日系企業の人たち

外国人実習生を受け入れる側の会社、ドラマなどで悪者扱いされる会社がどんな会社なのかを見ていきたいと思います。

1.外国人実習生を使う会社は優良企業のみ
外国人研修生を雇用している企業は、優良企業で、経営基盤もしっかりしており、毎年利益をあげ続けています。逆に言うと、そういう企業でなければ、今のシステム上、外国人研修生を受け入れることができなくなっています。

今にもつぶれそうな経営をしている会社は、外国人研修生を使えないシステムになっています。もし、そんな怪しい会社が、外国人研修生を受け入れたいと希望しても、「管理団体」が許しません。もし外国人実習生からの苦情が続くと、管理団体自体が存続できなくなるからです。

2.日本人より安いのではなく、ロボットより安いから使われる
日本の工場は小規模な工場でも、人件費を減らすためにオートメーション化されています。ロボットもたくさん動いています。でも、そのロボットや機械は数千万円単位のお金がかかるものもあります。ですから、現実的な言い方をすると、「数千万円かけてロボットを作るより、人が作業したほうが安い」から外国人実習生を雇いたいのです。決して、日本人より実習生が安いから、ではありません。

3.実習生は、搾取する対象ではなくて、「金の卵」
そして、これがもっとも大切なのですが、会社は日本人を雇おうとしても、人が集まらない、人が足りないのが現実です。もし外国人実習生がいなければ、これらの優良企業は製品を作れないので、企業として存続できません。だから実習生は「金の卵」なのです。

ほとんどの実習生は大切にされている

そのような理由で、現在外国人実習生を雇用している会社は、実習生をとても大切にします。私がお会いした会社の社長さんたちは、「今度、新しい実習生用の寮を作った」「うちは月に1回パーティーをしている」「2泊3日の慰安旅行に連れて行った」などなど、実習生の待遇改善に努めています。

抜けきれない外国人実習生「哀れな仔羊」説

ここまで書いてきたことが、外国人実習生の現実なのですが、日本のマスコミは、どうしても日本の企業を悪者にしたいようです。日本政府に対しても、「管理不足」などのレッテルをはりたいようです。
その中の代表的な事例が、失踪事件です。

過酷労働の悲劇! 外国人の技能実習生2万5千人が失踪(2015年産経新聞見出し)

ネットでもこんな報道がされています。こんな見出しを見たら、やっぱり実習生は大変なんだ、と思われるかもしれません。しかし、実態はそうではないんです。

実習生が訴える「ザンギョウしたい」

外国人実習生が日本に正規でいられるのは、3年間です。その限られた期間内に、彼らは1円でも多く稼いで帰りたいと思っています。だから、実は彼らから「ザンギョウさせてほしい」と企業に訴えるのです。企業側が、いやだと言っても、実習生の多くは、「私の友だちはもっと残業させてくれる会社にいる、私ももっとしたい」と言います。だから、残業が増えるのです。日本のブラック企業の強制的な残業とは、まったく意味が違うんです。

失踪の原因は、恋愛が多い

次に「2万5千人が失踪」と見出しに書いてあるんですが、実はこれは過去10年間の合計です。つまり毎年でいうと実習生の1~2%の人が失踪します。失踪の直接的な理由は様々ですが、基本的には、日本に不法でもいいから在留したいというのが、本当の理由です。会社が嫌だから逃げるのではなくて、もっと長期間日本に滞在して、稼ぎたいというのが大きな理由です。また、日本での恋愛も失踪の大きな理由となっています。女性の実習生が、日本人と恋愛関係になり、「駆け落ち」してしまうことが多いのです。そのため、女性の実習生を嫌がる会社もあります。

「過酷労働」と失踪は、関係がない

実際のところ、ほとんどの場合、過酷労働と失踪は関係ありません。しかし、マスコミは調査不足なのか、新聞を売りたいためか、話を単純化させて、読者に誤解を与えてしまいます。

時給400円で深夜まで奴隷労働(ニコニコニュース)

日本政府は厳しく取り締まっているのですが、中には闇のルートがあります。公の数字には出てこない実習生です。私が住んでいるタイの地方都市では、コンビニのアルバイトは、時給28~35バーツです。これは、為替レートにもよりますが、だいたい100円と考えていいと思います。日本の10分の1です。

もし、日本の皆さんが、定職がないときに、「時給4000円、衣食住付きで、外国で働いてみないか」って言われたら、ちょっと行ってもいいかなって思いませんか?タイ人にとって時給400円でも、衣食住がついていたら、じゅうぶんにいい給料なんです。こうして闇のルートができあがります。そして、闇ルートの問題は、こういうところで働いている「実習生」が、時給400円を事前に知らされている可能性が高いということです。

闇ルートかどうかの判定

こういうニュースで扱われる人は、問題が発生しても連絡先がないと証言しています。しかし、正規のルートで日本へ外国人実習生として行っている人は、自国の送り出し機関を通して日本へ入国していますので、会社で問題があった場合は、まず自国の送り出し機関に連絡を入れます。

「時給が契約と違う」「残業代が払われない」などの問題が発生した場合、自国の送り出し機関から、管理団体を通して会社と話し合い、問題解決をします。もちろん、送り出し機関への連絡は自国語でできますし、それを解決するのは、送り出し機関に在籍する日本人です。つまり、問題が起こったとき、連絡先がなく、日本の公的機関に駆け込む人たちは、正規の実習生ではないことがわかります。

日本には20万人の実習生が働いています

日本の皆さんは、普段外国人実習生について興味を持たれていないと思います。しかし、現実は、20万人以上の実習生が日本で働いています。更に、留学目的(多くは語学留学)で別に20万人が働いています。彼らは普段裏方で私たち日本人の生活を支えてくれています。コンビニのお弁当、野菜サラダの多くは、実習生が作っています。そして、それを販売しているのは、留学生のアルバイトです。

もし、日本でタイ人を見かけたら、「サワディーカップ、サバイディーマイカップ」と声をかけてあげてください。

By Ito
取材協力 BIG ONE OVERSEA MANPOWER CO.,LTD (ウドンタニ県)

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