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ワチラロンコン国王(10世王)の即位と今後のタイ

国王と今後のタイ王国©ibtimes
国王と今後のタイ王国©ibtimes

 2016年12月1日夜、ワチラロンコン皇太子が、国家立法議会(国会)議長からの王位継承の要請を受諾し、10世王が正式に即位した。10月13日のプーミポン国王の崩御から1カ月半の空白期間が空いたが、ワチラロンコン国王の即位日は遡って10月13日である旨が発表された。これにより史上初となる国王不在の空白期間は解消された。海外メディアなどの報道では、プレーム暫定摂政(元枢密院議長)との確執なども噂されていたが、新国王は再びプレーム氏を枢密院議長に任命した。今のところ大きな政治的混乱はみられない。

ワチラロンコン皇太子が新国王に即位

 70年の在位期間を誇った「国民の父」プーミポン国王の後を継承することは、たとえ継承者が高い徳や知性を備えていたとしても、王位継承にあたり困難を伴うことは容易に予想できた。今回の王位継承に際しては、プラユット首相の大変な尽力があったであろうことは想像に難くない。タイでは、高官が国王の前に出る際には地面を這うように身をかがめて進み、国王に対して最大の敬意を払う。高齢のプレーム暫定摂政は別として、三権の長である国会議長、最高裁判所裁判長とともに這うように新国王の前に進み出たプラユット首相は、タイの将来を思い祈るような気持であったのではないだろうか。

ワチラロンコン皇太子
ワチラロンコン皇太子

 ワチラロンコン国王と国王を支える高官たちにとって、挑戦は始まったばかりである。日本では、天皇個人よりも、長い歴史を持つ天皇制という制度そのものの方が重要性を持つ。しかしタイでは、制度としての王室よりも、国王の個人的な資質の方が重要視される。よってプーミポン国王の偉業は、あくまでプーミポン国王個人に属する徳とみなされる。このような国王または王室に対する理解は、国王本人にとっても大きな負担になるだろう。

ワチラロンコン国王© irishtimes
ワチラロンコン国王© irishtimes

 ワチラロンコン国王をどのような存在と位置づけるか。この点についても、プラユット首相による発表が興味深い。プラユット首相はワチラロンコン国王の即位後、同国王について、父であるプーミポン国王の下で44年間も皇太子を務めており、プーミポン国王の教えや哲学を受け継いでいく存在であることを強調した。また、ワチラロンコン国王の経歴を紹介するビデオは、同国王が豪州など海外で軍事教育を受けており、軍人として高い能力を持つことを前面に出した内容となっていた。

プーミポン国王を教えを受け継ぐ存在

 今のところワチラロンコン国王は、プーミポン国王を教えを受け継ぐ存在であり、軍人としても国家に奉仕する国王といったイメージである。以前から皇太子(当時)については、プーミポン国王や王妃との繋がりを強調する写真が頻繁に使われてきたが、今後も当面はこの傾向が続くと思われる。

 テレビなどで報道されたタイ国民の声は「新国王の即位は、(前国王が亡くなったので)悲しいことであるけれども、嬉しいことでもあります」「私たちは、いずれの代の国王についても、同じように敬愛しております」などであった。

プーミポン国王 ©AP Photo/Sakchai Lalit
プーミポン国王 ©AP Photo/Sakchai Lalit

 しかし、今でも「国王」(ナイ・ルアン)または「父」(クン・ポー)といえば、プーミポン国王を思い浮かべる人々が多いだろう。王宮前広場近くの雑貨屋では、今もプーミポン国王の写真が多数売られており、連日多くの人々が写真を買い求めている。テレビでは、可愛らしい幼い少女が国王に向かって「しっかり勉強して、地域の発展に尽くします」と誓うCMが繰り返し流れている。少女が見上げる先には、プーミポン国王の写真が飾られている。

 タイ国王は、国民からの信頼を自らの努力により構築していかなくてはならない。よって「国王」が真の意味で、プーミポン国王からワチラロンコン国王に変わるには、必然的に時間がかかる。すべては緩やかに、少しづつ変化していくのだろうと思われる。

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Written by 外山文子

外山文子

京都大学東南アジア研究所研究員、タマサート大学政治学部客員研究員。京都大学博士(地域研究)。専門はタイ政治、比較政治学。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、公務員を経て、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了(2013年)。

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