仕事の関係でタイにやってきてから、趣味として始めた写真撮影。もともと旅行が大好きだったので旅行のときには、ポケットにコンデジを忍ばせていては、気になるものがあればパチリと撮影していた。ひょんなことから、一番レフカメラで撮影された美麗は写真に感動して以来、男の趣味はやっぱ、“クルマ、時計、そしてカメラだな”と勝手に意気込んだのが最後、その日に入門用のデジタル一眼レフカメラを購入してしまった。
そうなるとすぐに撮影したくなるもので、何か撮るものはないかとフリーペーパーに掲載されてあるバンコクの地図の中から探し出したのが、バンコクの自宅からタクシーで簡単に行ける範囲にある鉄道のフアランポーン駅だった。日本と違ってたくさんの種類の車両が見ることができるわけではないけれど、古く歴史のある駅舎に佇んでいる発車待ちの列車、ディーゼルエンジンの音と匂い、雑踏の騒々しさを目の当たりにすると否が応でも写欲をかき立てられてしまう。写真を見よう見まねで独学していると、太陽の位置が高い昼間よりも早朝や夕方の方がいいとわかり、朝5時に早起きしてタクシーを飛ばして夜明け前に駅のプラットホームに立つこともある。
朝日の中、ヘッドライトを照らしながらうす暗いホームにスローで進入してくる長距離列車、そして客車から降りてくる乗客。次の出発までの間、車内清掃やシーツ取り換えを行う作業クルーの方々、出発に向けてアイドリングをしながら出番を待つディーゼル機関車。数えればキリがないほどの贅沢な被写体だと思う。太陽の向きが一分一秒ごとに変わっていく中で、陽が当たる人々の群れや巨大な機関車の連続的に変化する表情を、汗だくで夢中でカメラに収めるのがとても気持ちいい。気がつくと、すっかり陽が昇ってしまっていることも。
早朝の雰囲気と対照的なのが夕方。朝に比べてどことなく寂しい雰囲気はあるけれども、私は夕暮れの中、夕日を背中に浴びながらフアランポーン駅を後にする列車も大好きだ。ハジャイやチェンマイへ向かう西洋人旅行者、土産物らしき袋を両手いっぱいに抱えて乗り込む人、眺めていると、ちょっと寂しげな夕方の雰囲気を旅行者の笑顔が帳消しにしてくれているようにも思える。
同じ場所で似たような被写体を撮り続けているようだけれど、時間が違えばそれらは全く違った雰囲気になってしまうところがフアランポーン駅の大好きなところだ。そして、訪れる回数を重ねていくうちに今度はまた何か違った雰囲気で写真を撮ってみたいと思わせるような場所。これからも何回も訪れて、写真のウデを磨いていきたい。