誇れるニッポンの技術
「海外でも通用するような高い技術力を持った会社が、やる気のある技術者が、日本にはまだまだたくさんいるのに、何から始めていいのか分からないだけで、せっかくのチャンスを失っている。とても、もったいないことです」
そう語るのは、主に日本の中小企業を相手にコーディネート業務を展開する千田多美重さん(最上部写真右)。「ピンポイントアジアコンサルティングジャパン」の代表。日本とタイを拠点に忙しい日々を送る。
これまでいくつかの中小企業経営者や技術者と接し、彼らの海外進出を支えてきた。大手資本とは異なり、海外に出ることを「何かギャンブルのように感じている」中小企業経営者たち。「商品開発は孤独」という気持ちがわかるだけに、そっと背中を押してあげたいと思う。
自信を持ってタイに出て行ってほしい。だから、現地の声のフィードバックも忘れない。「タイの人々が、貴方の会社のこの製品が良いと言っていますよ」。きめ細かいサポートを心がけている。
海外に進出してほしい日本の中小企業
大手企業に比べて情報発信力で劣る中小企業。タイの現地企業とアクセスすることもままならない。タイ人消費者層の消費動向もどうつかんだらいいかも分からない。
経済成長が続くタイの消費は旺盛だ。毎月のように新たな商業施設が誕生し、各地でイベントやプロモーションが開かれている。「こうした場と日本の中小企業を何とか結びつけたい」と千田さんは考えている。
「OEMの経験しかなく、製品作りはできても、商品作りはできないという中小企業が意外とある。こうした企業にこそ、タイに進出してもらいたい」
タイを拠点とするが、タイ1カ国だけにもとらわれない。周辺諸国の消費動向、経済情勢なども調査・情報収集の対象。国と国との比較情報は説得力にも富む。近く、インドとマレーシアにも出張の予定だ。
「ウマが合った」パートナーとの出会い
日本の大学にも進学したことのあるタイ人女性ピンさん(最上部写真左)がパートナー。昨年暮れの洪水ボランティアで知り合った。日本語、英語にも堪能なピンさん。「自然とウマが合った」
「使う」「使われる」ではない対等のパートナー。進出企業にありがちな「雇用・被雇用」の関係ではない新しい事業スタイルを目指す。日系企業に対する千田さんのプレゼン力、タイにおけるピンさんのネットワーク力が重なり合って、はじめて高いシナジーが発揮できると信じている。
社名の「ピンポイント」には、「専門的」あるいは「プロフェッショナル」という思いを込めた。「表面をなぞっただけの情報をクライアントは求めていない。より照準を合わせたピンポイントの情報を提供するのが私たちの使命」と力を込める。
「今度は息子を仕事に連れて行こうかな」
23歳と20歳の2人の息子の母親でもある。長男は大学進学後に渡航し、現在はアメリカの独立リーグなどで好きな野球を続けている。近くオーストラリアも渡る予定だ。
一方の次男は「文化系のビジネスマン向き」。母親の仕事については「見向きもしないと思っていたが」、先日どこで調べてきたのか食卓で「マーケティング」について語り出した。
「私そういう仕事をしているのよ」と千田さん。思わず目と目が合った。その後、タイには1度だけ遊びに来たことがある。「面白い」と話していた笑顔が印象的だった。
「今度は息子をインドにでも連れて行こうかな」。温和な表情でそう語る千田さんだったが、次の瞬間にはもう、プロのコーディネーターの顔に戻っていた。
タイで生活する日本人は最新の2012年統計で約5万人。企業などの駐在員や永住者、その家族などが多くを占め、滞在する男性の多くが仕事を持って暮らしている。女性についてはビザの関係から就労が難しいと一般的に理解されているが、実は、働く女性は決して少なくない。新企画「タイで働く女性たち」では、タイで仕事に就き、活躍する女性たちを追う。