バンコクで偶然にも出会い、音楽好きが高じて結成に至った日本人イベントクルー「VACANCY」の4人。北海道に帰国した日本人DJ HIROOやタイDJ界のスターDJ DRAGONに憧れ、タイでともに歩みを始めて間もなく4ヶ月。小規模店舗を中心にしたLIVE活動は、ステージと観客席が一帯となった中身の濃い新しいスタイルとしてバンコクでも受けいられつつある。4人が目指す音楽のカタチについて聞いた。(敬称略)
クルーとしての一体感
10月中旬某日の午後9時。待ち合わせのその場所に最初に姿を見せたのは、グループでも知能派で知られるアーティストBAKED 3だった。バンコク・トンローの「シエイズオブレトロ」。VACANCYが初めてイベントを行った店。まだ約束の時間まで30分もあった。
静かに話をはじめるGAOLAO。「改めて最近タイ語を勉強し始めたんですよ」。そう語る彼の眼に、落ち着きとタイで活動していくという覚悟、そして確かな自信を感じた。
とりとめもない話しで時間が過ぎていく。待ち合わせとした時間の5分前、全てのメンバーが揃った。ともすれば時間にルーズになりがちな仲間内での約束事。クルーとしての一体感をそこに見た。
「僕らも何か活動を始めよう」
メンバーは、GAOLAOのほか、SHUNCOBA、TEP、MOOLAの計4人。このうち、GAOLAO、SHUNCOBA、MOOLAの3人が、HIROOが始めたイベントGIANT SWINGで偶然に出会ったことが、結成のきっかけだった。
独創性の高い音楽を求めて、イベントやパーティーめぐりを重ねてきた3人。HIROOたちの演奏を聴くうちに「僕らも何か活動を始めよう」と思うようになったのは、自然な流れだった。
それから数ヵ月後、ちょっとしたことがきっかけでMOOLAがHIROOのイベントに参加する話が舞い込んできた。「いよいよデビューか!」。気持ちも高ぶった。だが、店舗側の都合で急遽イベントが中止となり、HIROOも家庭の都合で日本へ帰国することが決まった。せっかくの機会が一瞬で泡と消えた。
それでもメンバーたちは諦めなかった。「このタイミングこそが全て」。このチャンスを逃したくないと誰もが感じていた。パーティーで知り合った友人からの紹介で、トンローソイ20にある「シエイズオブレトロ」に会場が決まったのはそれから間もなくのこと。前後して、GIANTSWINGのファンでもあったTEPが加わり、4人でつくるVACANCYが始動した。
クルーのプロデューサー的立場でもあるMOOLAは当時をこう振り返る。「タイに来る前から、大きな店舗などではイベントやパーティーが盛り上がっているだろうと予想はできていた。ただ、個性豊かで独自性の高い音楽カルチャーが集まるような小さな店舗は、まだ存在していないだろうとも思っていた。例え、そういった環境があったとしても日本人が活動しているとは全く思ってもいなかった」
だが、現実は違った。アーティストと観客が触れ合う狭い空間で、これ以上ない感動を日本人のHIROOたちは既に現実のものとしていた。「その時はもう、本当に驚いた」。MOOLAの言葉に偽りは微塵もない。「ぼくらは、過去の日本人の音楽活動のお陰で機会を持てたわけで。それが何よりの救いに感じているんです」