「従業員教育で最も難しかったのは、『おもてなしの心』という日本では当たり前とされているサービスのタイ語訳が存在しなかったこと。言葉がないのだから、どう教えるかが本当に大変だった」と振り返るのは、ツルハのタイ1号店で教育・研修の担当だったシニア・マネージャーの向井俊さんと高橋正憲さん。
顧客が店舗を訪れた時は、明るく爽やかに「いらっしゃいませ!」。反対に店を出る時は、心を込めて「ありがとうございました!」。笑顔に清潔感溢れる身だしなみ。インターネットの普及などもあって、接客業が初めてというタイ人従業員も今では研修を受けることで遜色なくなり、身なりや挨拶の面での心配は特段ないという。
その一方で、現在もなお一番のネックとなっているのが、接客の基本とも言える冒頭の「おもてなしの心」。ツルハ側の企画・通訳を買って出たタイ人女性のオーさんも流暢な日本語で「タイ語には、そういう言葉がないですね」と困惑しきり。
「自分のことよりも、まずお客さまのことを考える。お客さまに気持ち良く、満足して買い物をしてもらう。心を込めての『心』に力点を置き、何回も何回も説明しました」と話す。
タイの小売店舗に足を踏み入れると、狭い店内にどう見ても多すぎる従業員が配置されているのをよく見かける。しかも、大半の従業員は突っ立ったまま。顧客に声をかける風もなく、ただ漫然と立っているだけ。
日本人でも、どのタイミングで顧客に声をかけるか悩ましいところだが、「それができないと、おもてなしの心をコンセプトとしているツルハでは、かなり難しい」と高橋さん。
顧客の照会にしっかりと商品の説明ができるかということも大切なスキル。よどみなく、それでいて、おしゃべり過ぎず、出過ぎない商品説明ができて「初めて一人前の接客」(オーさん)となる。当然、商品アイテムの数だけ知識は必要となる。
他社にはまねできない「おもてなしの心」。圧倒的な日本式サービスで、国内1000店舗を達成したツルハはタイ・バンコクでも顧客の信頼獲得を狙う。