日本全国に19拠点、計29の生産工場「きのこセンター」を置くホクト株式会社。北海道から九州まで日本列島を網羅、一年中いつでも美味しいきのこを提供できるまでに成長を遂げた。全国の「きのこセンター」で収穫・出荷されるきのこは1日あたり100gパック換算で約250万パック。大半の家庭で少なくとも週に数回はホクトのきのこを食べている計算になる。ところが日本市場は少子高齢化が進み、今後は縮小が続く見通し。そこで考えたホクト。「健康に優しい安心安全なきのこを世界に広めよう!」「これからは、世界の人々の健康を考えていこう!」。今回は世界に羽ばたく「きのこ屋さん」のお話――。(きのこセンターの数は2012年3月末現在)
アメリカと台湾に進出
「世界のきのこ屋さん」とは、2009年に急逝したホクトの先代社長、水野正幸氏が2008年10月にテレビのインタビューを受けた際に語った言葉。きのこの薬理効果に着目し、種菌の開発から生産さらには販売まで行うというビジネスモデルは、必ず世界に通用すると考えた先代社長。10年後のホクトの姿を分かりやすく表現したのが、このフレーズだった。
すでに、その2年前、2006年にはアメリカ・カリフォルニア州に子会社HOKTO KINOKO COMPANYを設立、ブナシメジやエリンギなどの生産・出荷を開始していたホクト。2007年11月には2箇所目となる海外拠点・台湾支店を設立し、ブナシメジ・ブナピーの生産・販売に乗り出した。
現在は子会社、台灣北斗生技股份有限公司として第2工場も稼動している。現在、アメリカでは116人、台湾では54人の従業員が日夜、高品質で美味しいきのこを現地の消費者に届けようと生産・販売に励んでいる。(従業員数は2012年3月末現在)
東南アジア・タイへ
活路を求め、「世界のきのこ屋さん」になろうと決意を固めていたホクトが、成長著しい東南アジアに進出するのも時間の問題だった。2015年には市場が統合され、2兆ドルを超える巨大マーケットが誕生するASEAN。中でも人口6900万人を抱えるタイは一大消費地で、タイでの成功の可否が海外戦略のその後を占うと言っても過言ではなかった。
それだけに、薬理効果が高く、肉厚で美味しい自社のきのこをタイ人消費者層に是非知ってもらいたいと考えるホクト。今後は、スーパーなど商業施設の店頭で試食のデモンストレーションやキャラクターを使ったイベントを通じて、より身近な存在と感じてもらえることを目指している。同時に、レストランにいらっしゃるお客様にも美味しいきのこを提供できるよう営業中だ。
ASEANだけでなく、ゆくゆくは人口の増加が続くインドや中東、ヨーロッパ市場までをも射程と考えている。こうして海外進出を積極的に押し進めていくのも、「きのこ」という食材の特性からして、ある意味では当然であった。ヨーロッパでは古くから様々なきのこが食用とされてきた。中でも「きのこの王様」ともされるトリュフは特に有名。フランス・ペリゴール産の黒トリュフやイタリア・ピエモンテ産の白トリュフは高級食材として需要が高い。
フランスでは「セップ」とも呼ばれ、トリュフと並んでヨーロッパでは最高級のきのことされるポルチーニ(和名ヤマドリタケ)も高人気。肉厚で舌触りが良く癖のないのが特徴で、ホクトの目指すきのこ像と瓜二つとも。
ホクトにはもう一つ、世界戦略を進めるうえでの譲ることのできない「使命」がある。もともとが食用等の包装資材販売業から出発した同社。研究に研究を重ね、きのこ栽培用に開発したP.P.ビン。壊れたものや古くなったものは自社工場にてコンテナやキャップの原料としてリサイクルに供している。
きのこを栽培する時にいわば「土」の役目を果たす植物原料100%の「培地」も、使用済後は畑や果樹園で優良な堆肥として再利用。変わったところでは、きのこの菌糸を含んだ優良なエサとして牛のえさにも活用されている。世界的な環境破壊やゴミ問題が山積する昨今、こうした「地球に優しい企業」としてのあり方も追求するホクト。こうしたリサイクル技術も世界に広げていきたいとしている。
「世界のきのこ屋さん」を目指すホクトの試みは、まさに、タイを舞台に新たな段階に入ったと言える。