近年、日本での注目度も高まりつつあるサッカーのタイリーグ。今シーズンも40人近い日本人選手が同リーグでプレーしたが、とりわけ“日本流”を掲げて戦う注目のクラブがある。タイリーグを代表する名門の一つ、チョンブリーFCだ。選手のみならずコーチ、スタッフらも多くを日本人で固めるという、世界でも他に例を見ない同クラブの挑戦に迫る――。
ヴィタヤが自ら招いた最初のサムライ
監督のヴィタヤが“日本流”でのチーム強化を図る上でまず白羽の矢を立てたのが、2010年のワールドカップ南アフリカ大会で日本代表のGKコーチを務めた加藤好男だった。
30年来の旧知の仲であった二人は2010年、ワールドカップの報告会としてマレーシアで行われたカンファレンスにて再会、その場でヴィタヤは加藤をチョンブリーFCへと誘った。
「そういうふうに見ていただいていて光栄だなあとは思いましたね。ただ、自分がタイにいって仕事をするとはまだイメージがつかなかった。私自身もワールドカップが終わって一段落して、次の自分の進路、方向性を模索している時期だったので」
加藤を動かしたヴィタヤの熱意
だがその後、再びヴィタヤから直接の電話を受けると加藤の心は動いた。日本が短期間でワールドカップの常連国となったそのメソッドが知りたい――。ヴィタヤの熱意が伝わった。加えて、加藤にはもう一つの思いがあった。
「指導者として選手たちに、『海外へ出ろ』ということをすごく強調していたんです。でも、いざ考えてみたら自分はどうなんだ、と。指導者として、本当に海外で挑戦できるんだろうかと思ったんですね」
ヴィタヤの思いと加藤の向上心が巡り合い、チョンブリーFCに心強いサムライが加わることとなった。
驚かされたタイサッカーのポテンシャル
「文化や習慣が違うので、最初はすごく戸惑いましたよね。いろいろな面で環境の違いというのを感じましたし、日々驚きがありました。日本では3、4時間がせいぜいのバス移動もタイでは6、7時間は当たり前。最長では15時間も経験しましたから」
だが、そんな環境の中、日本の最高レベルを指導してきた加藤から見ても、タイサッカーの可能性には目を見張るものがあるようだ。
「びっくりしたのは、彼らのポテンシャルはめちゃくちゃ高いんですよね。身体能力とかも日本と比較しても見劣りしない。アジアのトップレベルを目指すポテンシャルは十分にあると思っています」
手腕が認められ、タイ代表コーチに招聘
一方で、欠けている点も強く感じた。
「判断を伴ったスキル、この面はすごく問題がありました。ただ、これは日本もJリーグが始まって、外国人指導者が入ってきて身に付いた部分です。できれば私がタイにいる間に、その部分をいかにレベルアップしていくかということを落とし込めればと思いますね」
最低限のタイ語を身に付けながら、“日本流”の指導を取り入れて3シーズン。教え子もタイ代表で着実にキャリアを積み上げ、その手腕が認められた加藤は今年、タイ代表のコーチに招聘された。歴史的な出来事だ。
ヴィタヤが招いた最初のサムライはすでに、チョンブリーFCの枠を超えてタイサッカーに“日本流”を浸透させようとしている。
<其の三/加藤光男(アシスタントコーチ)につづく>