選手のみならずコーチ、スタッフらに複数の日本人を配し、“日本流”でチーム強化を図るサッカー・タイリーグの名門・チョンブリーFC。昨年、「六人の侍」として連載で紹介したが、今季はさらに監督、選手と計三人のサムライが加わった。
タイと日本がコラボレーションする異色チームの新たなサムライたちを、3回に分けて紹介する――。第2回は、橋本早十選手。
Jリーグで10年戦ったサムライ
「もともと海外でプレーしたいという気持ちはありましたが、タイというのは正直、選択肢としてあまりなかったですね」
橋本早十は大学卒業後、昨季まで10シーズンに渡ってJリーグ・大宮アルディージャに所属。うち9シーズンは日本の最高峰、J1リーグで左利きのミッドフィルダーとしてプレーしてきた。
若い頃からヨーロッパでプレーしたいという思いはあったものの、これまで縁のなかった海外。10年間世話になった大宮との契約満了が、挑戦の「良いきっかけ」と感じた。
だが、ヨーロッパでのプレーは難しいかもしれない。そこで、まず橋本の頭に浮上していたのは、アメリカやオーストラリアといった英語圏でのプレーだった。
トライアウトが渡タイのきっかけ
昨季のJリーグ最終節の翌日、橋本は合同トライアウトに参加した。そこには、チョンブリーFCの“日本流”のキーマンでもあるヴィタヤ・ラオハクルの姿もあった。
昨季までチョンブリーFCの監督を務めていたヴィタヤは、さらなる日本人選手の獲得を考えていた。トライアウトで目にとまったのが橋本だった。
「その時にヴィタヤさんから声をかけてもらって、チョンブリーの練習に参加してほしいということで。正直、それまでタイのイメージは、日本人選手が多いというくりらいしかなかったんですが…」
アメリカやオーストラリアは、時期的な面で挑戦が難しそうだった。橋本はヴィタヤの誘いを受け、練習参加のためにタイへ向かうことを決めた。
Jリーグで10年の経験を誇る橋本早十技術はあるが「サッカーを知らない」タイ
橋本がタイへやってきたのは昨年の12月。チョンブリーFCへの練習参加の期間は9日間だった。
「正直、Jリーグよりはレベルは低いと思いましたが、チョンブリーに関してはいい選手がたくさんいるとも感じました」
Jリーグで10年間プレーしてきた自分がこの場所でプレーすることを想像すると、うっすらと「やりがい」も見えてきた。
「技術のある選手はいっぱいいるけど個々でやっている感じで、戦術面や、サッカーを知っているという印象はなかった。そういうところは自分の経験が生かせるかな、とは思いましたね」
Jリーグ10年の経験をタイに
そのままチョンブリーFCとの契約に至った橋本。慣れない海外での生活で、最初は文化の違いなどに戸惑うこともあった。
開幕前には食事面の問題で体調を崩し、コンディション不良に陥ることもあったが、徐々に環境にも慣れて開幕後はチームの戦力として活躍している。
「助っ人なので、結果にこだわってやりたい。それは日本では感じられなかったことだと思うし、逆にそれにやりがいを感じています
日本の最高レベルで10年間プレーした橋本の経験は、チョンブリーFCのサムライの中でも群を抜くもの。また新たな角度からチームに“日本”が取り入れられることになるだろう。
<第3回/和田昌裕監督につづく>