日本の大学や学部が海を超えて外国の大学などと行っている知的・人的交流が「交換留学制度」。1年を超える長期のものから数ヶ月という短期までさまざまで、これまでに数多くの研究成果を挙げて来た。タイの最難関チュラロンコーン大学でも日本のいくつかの大学(学部)と協定を結び、日本人の学生を積極的に受け入れている。その中の一人、国立信州大学理学部から昨年派遣され、このほど大学を卒業した元交換留学生が、anngleのために手記を寄せてくれた。短期集中連載で一挙公開!
私が、チュラロンコーン大学理学部へ「交換留学生」として派遣されたのは、2012年10月1日のこと。期間はちょうど2ヶ月間だった。研究テーマは一言で言えば「カタツムリの研究」。貝類学の起源と歴史、軟体動物の系統分類を基礎から学ぶために私は熱帯の国タイに向かった。
就職活動もようやく終わり、私の本格的な卒業研究が始まろうとしていた。海外研究は今回が初めてというわけではなかったけど、なんだかすごくワクワクしていた。どんなタイでの2ヶ月になるのだろう。ドキドキというか、期待でいっぱいだった。
タイについたのは、深夜0時頃。タイの研究室のみんなが空港まで迎えに来て、そのまま学生寮まで連れて行ってもらいすぐに就寝した。翌々日には、2週間に及ぶサンプリング。ワクワクしながらもちょっぴり何か不安だったけど、こうして私のタイ研修は始まった。
最初の拠点は、チャンタブリ。ホテルについたら荷物を下ろしてすぐにサンプリング地へ出発。今回のサンプリングは私の日本の大学の教授もいっしょだ。教授は、このタイでのサンプリングをもう12年も続けているだけに、タイの研究員のみんなととても仲がよかった。しかも、変わり者とよく言われる教授の性格をよく理解してた。・・私はそんな教授が好きだけども(笑)
サンプリング地に着いたと同時に、準備開始!カタツムリを入れるためのメッシュ袋にマーキングをして、服装もヒルなどの生き物に噛まれないよう長靴、長袖、長ズボン、帽子、加えて首にはタオルを巻いて、さらに服の上から大量の虫除けスプレーをかけていざ出陣。サンプリング地は、まさにジャングルだった。
道なんてない。ただ、先頭を歩く人がナイフでつるや細い木を切って進んでくのについて行った。ジャングルでのサンプリングに慣れていない私は、初めジャングルを見たとき、かなり唖然としてしまった。こんな所に入っていくのかっといった感じだった。
ある程度、中に入ったところで目的地に到着。持ってきたロープで50m区画をいくつも作っていく。そしてそのロープに沿って、カタツムリの殻を拾っていく。殻はいたるところで落ちていて、一種類ではなく、何種もの殻が見つかった。
日本で見たことのあるカタツムリとは全く違い、殻の口が飛び出ていたり、とんがっていたり、ヘンテコな形をしているものまで。見たことがないものばかりだったので、私は、小学生のときに夢中になって昆虫を探していたように、気づいたら殻探しにすごく没頭していた。
あまりに集中しすぎていたせいか、つるにひっかかったり、ぶつかったりなんて幾度もあり、気づかないうちに刺が刺さってて血が出ていたことなんて何度あったことやら・・・・。そんなこんなで、このサンプリングを通して、体に見知らぬあざや傷がどんどん増えて、気づいたら傷だらけになっていた。(続く)
【メモ】
みなさんは、カタツムリに右巻、左巻があることを知っていますか?しかも面白いことに、巻型によって内臓の位置が逆転しています。つまり、内臓逆位しているのです。そのため、巻型を見るだけで内臓がどちらに位置しているのか知ることができます。
巻型には右巻、左巻があるのですが、世界にいる巻貝のほとんどは右巻です。これは、進化の過程で多くの種で右巻への固定が生じたためです。左巻に固定したものもいますが、そのような種はごくわずかです。
このように、種は右巻か左巻のどちらか一方に固定することが一般的な認識となっていて、また両方の巻型がいつも一緒にいるような種は存在しないとされてきました。
他の動物においても同様で、内臓逆位したもの、つまり実像体と鏡像体の二型をもつ種は存在しないと考えられてきました。これは、何かしらの要因で淘汰されてしまうからです。
ですが、例外的に二型を持ち、さらにその二型を長期に渡って維持してきた種が東南アジアでこれまでに見つかっています。そのため、この二型を持つカタツムリが本当に淘汰されずに二型を維持しているかどうかを解明することが私の研究の目的となっていました。
文・写真提供:山岸由季(やまぎし・ゆき) チュラロンコーン大学理学部と信州大学理学部の学部間協力協定により、2012年10月1日から12月1日までチュラロンコーン大学に短期留学。Malacology(軟体動物学)と英語を履修した。2013年3月、信州大学を卒業し、日本の民間企業に就職。