民主化が進み、観光地としても注目されるようになったミャンマー。年間の外国人観光客は35万人にも及び、隣国タイからも近くて遠かった未開の地を一目見ようと、5万人近い観光客が訪れている。ところが、4月に始まった変動相場制への移行を知らず、思わぬ不利なレートで通貨を交換するなど後になってもめる事例も。トラブルに巻き込まれないためにも、為替に対する正しい知識が求められている。
6月にミャンマーを観光で初めて訪れたというバンコク在住の日本人Aさん。「回りの人たちが皆、これからはミャンマーだと口を揃えて言うので、一度行ってみることにした」と、空路ヤンゴンに入った。「とにかく物価は安い」と聞いていたので、特に為替に対する知識も持たず、行き当たりばったりで場末の安宿に泊まることにした。
日本円が通じるかも分からず、タイバーツよりは交換レートも良いだろうと米ドルを持参し、宿でいくばくかの両替を求めた。すると、宿のオヤジは政府刊行物のような印刷物を示して、「公式レートは1ドル5.8チャットだが、実はもっと良いレートで交換できる」と耳打ちするではないか。
チャットはミャンマーの通貨。「良いレート」が気になって話しをさらに聞くと、1ドル600チャットで交換してくれるという。公式には1ドル6チャットにも満たないのが600チャット。「なるほど、軍事政権下だと、こういうことがあるのか」と勝手な理解をしたAさんは、予定していたよりも多めのドルを取り出すと、躊躇うことなくオヤジに差し出した。
4日間の小旅行を終え、バンコクに戻ったAさん。すっかり気持ちを良くしていたところ、知人の説明を聞いて愕然とした。公定レートの6チャット前後はその通りだが、闇の実勢レートは600チャットではなく実は約800チャットのはずだという。
しかも、それは全て変動相場制に移行する4月前までの話。今では、公定と闇の複数相場は存在せず、1ドル800チャット~900チャットで推移。「600チャットとはずいぶんと足下を見られた」というのだ。
チャットは昨年後半、民主化の期待が加熱したことから闇レートが高騰。一時、1ドル700チャットを割り込む事態となり、対応が急がれた。経済の実勢を反映していない通貨の上昇に、ミャンマーの中央銀行は今年4月1日から、これまで続いていた固定相場制を改め、管理変動相場制に移行するとを発表。従来あった公定、輸出、闇の3通りの為替レートを一元化するとした。
自らの勉強不足から恥ずかしい思いをしたAさん。「ミャンマーはすごい勢いで変化しています。古い観光ガイドには、まだ複数相場制の案内が出ているはず。観光だからと安易な気持ちでいるのは禁物。最新の情報に接して」と話している。