極上のもつ焼きは「人情酒場 なぎ虎」
バンコクに焼き鳥の店は数あれど、豚のモツを食わせる“焼きとん”の店は意外に少ない。場所はスクンビット22が24に合流する手前、ラマ4世通りにほど近いタイ人ローカルエリア、夜間は日本人はおろかタイ人が行き交う姿もまばらだ。いわゆる普通の飲食店経営者ならば出店に二の足を踏ま混ざるを得ない立地だ。
そんな悪条件をいっさい顧みず、人情酒場 なぎ虎は NOMO〜YO〜(呑も〜よ〜)を合言葉に2018年暮れに電撃オープン。それも物件取得後わずか4日という異常なまでのスピードに同業者の誰もが驚愕した。
蓋を開けてみれば開店初日から連日連夜大盛況、飲食関係者を中心にカウンターから席が埋まって行く。
あちらではシャンパンの栓が抜かれ、こちらでは従業員と客がビールで乾杯。店内にNomo-yo-の掛け声がこだまする。毎夜宴たけなわなこの店の様子をガラス越しに観ながら一見の客が立ち入るには相当な覚悟がいるに違いない。
だがしかし、恐れを棄てて暖簾をくぐっていただきたい。是非とも食して欲しい逸品がここにはあるのだ。
もつ焼き シロ 1本40バーツ
これだけ見事に焼き上げられた代物は日本でも余程の専門店でないとありつけない。焼き鳥、焼きとんとなるとやたら塩にこだわる人もいるがシロなら断然タレをお勧めする。シロとは豚の腸を指すが、内臓ゆえに鮮度の良さは当然の事ながら丁寧な下処理を要する。加えて串打ちの美しさ、程良い焼き加減、タレの焼き付け、甘辛のバランス、柔らか過ぎてもいけない、固すぎてもてもいけない。
これら全てがそろった時、噛めば噛むほどに腸壁の脂の旨味とタレの甘みが混然一体となり食べ手の味覚中枢を震わせる。焼きが足りないと噛み切れず、焼きすぎると肉まんの底に付いてくる紙の様なパサパサの食感になってしまう。
これだけの仕事、一朝一夕でできるはずはない。
それもそのはず、店主の草薙圭一氏(寅年)はその風貌に違わず若い頃は相当やんちゃ者だったという。ところが26歳の時、それまでの自分を戒め東京中野の有名店にもつ焼き修行に入る。その後、東京 バンコク合わせて十数店舗もの居酒屋の立ち上げに携わり満を持して自店をオープンしたのだ。幾多の試練を乗り越えてきたからこそ、彼の仕事には誠実さが、接客には優しさが溢れている。
まさに人情酒場の『あるじ』にふさわしい。
麦焼酎のソーダ割にカットレモンを一切れ
この店のシロ、自分のみならずともファンは多い。飲食店も経営し食通で知られるゴルフのティーチング・プロも絶賛する。とある鉄板焼屋のシェフは一人で来店するなりシロを10本、焼酎一本を軽く平らげるツワモノだ。僕は一味を多めにふりかけた後、皿に溜まったタレをしっかり絡めながら二切れづつ、串から直接頬張る。日本でならば間違えなくホッピーを合わせるところだが、ここバンコクでは麦焼酎のソーダ割にカットレモンを一切れ。これがなんとも堪らない相性の良さ。
既に繁盛店とはいえまだまだオープンから日が浅いため、営業時間は店主の采配でしばしば変動する。来店の際には確認が必要だ。個性豊かな常連客がカウンターを囲み夜な夜な繰り返される熱い宴。気づけば夜明けという日も珍しくない。初めての方には相当ハードルが高く感じられるかもしれない。いや、はっきり言ってかなり入り辛い。
だが勇気を振り絞ってその扉を開けて欲しい。
その先には極上のシロが待っているのだから。