多くのタイ人が海外へ出て労働力を売る時代。中東の国で騙されて働かされるという話は、各種メディアでも報じられており聞き「慣れた」感があるが、実は、日本でもそれと似たようなことが起きているのだ。
希望を胸に日本へ働きに来た外国人労働者の多くが、現実はそう甘くないことを知る。劣悪な職場環境で働きづめの毎日に、「これは間違いなく日本政府からの支援を受けた人身売買だ」と非難する人も少なくない。
「外国人研修制度」とは
「外国人研修制度」と呼ばれる日本への「招請」プログラムは、名称を聞く限り、響きがとても良いものだ。外国人が日本へ来て技術を習得し、経験を積み、帰国後は自国の発展に寄与することを目的としたこのプログラムは、5つの省の傘下にあるJITCO(国際研修協力機構)という組織により進められているもので、日本政府もこのプロジェクトを支援しているということは間違いない。
しかしながら、この世に「無料」のものは無いというのが現実だ。
日本社会の現状
日本の「超高齢化」そして「少子化」社会、先進国の中では非常に低い失業率(2016年で3%)ではあるものの、どんなに求人があろうと、日本人は所謂「3K(=Kitsui(きつい), Kiken(危険), Kitanai(汚い)」と呼ばれる仕事には就きたがらないのが現状だ。日本人の多くは3Kの仕事に就くくらいなら失業を選ぶだろう。
では誰がその3Kの業務を担うのか?
その答えは「外国人」なのだ。
「外国人研修制度」の実態
この「外国人研修制度」が、スキルのない外国人労働者を日本へ引っ張って来るための手段となっているのが現状だ。期間を満了したら国に送り帰し、新しい人が働きに来て、期間満了後また国へ送り帰される、ということが1993年にこの制度が始まって以降、ループのように回転して行われている。
実態と乖離しながらも「外国人研修制度」という名称に依拠しなければならない理由は、日本へ働きにやって来る外国人労働者を受け入れる仕組みが無いからである。こういった仕事のためのビザが存在せず、日本で働く場合は就業ビザでなければならない。スキルのない労働者向けにビザの形式を増やすことは、日本国内に外国人が働きに入って来るのを容認するようで、見栄えがしないのであろう。実務研修システムを使うことで、響きが良く外国人にとって見栄えがするものにしている。
甘い言葉を聞いて、多くの外国人が、より良い将来のために志を持って日本へやって来るが、現実はそう甘くない。外国人労働者の多くは、農業であれ、建築業であれ、工場勤務であっても、殆どスキルを必要としない仕事に就くのである。毎日牡蠣の殻をむくだけ、という人もいるのだ。それで何の技能実習になると言うのだろうか?
業務内容が何の技術の習得にもならない、ということに加えて、職場環境も非常に劣悪なのだ。日本の平均最低賃金は1時間764円であるにも関わらず、外国人労働者への賃金を1時間300円しか払わない工場もある。これはまだマシな方で、外国人に賃金を払わずに、眠る場所と食事だけが提供されるような職場も存在する。パスポートや通帳を取り上げてしまう所さえもあるのだ。
女性の労働者の場合は更に酷い。会社外の人と会うのを禁止される人もおり、妊娠したら強制的に帰国させられる。雇用主からセクハラを受ける人もいる。
業務時間の問題もある。毎月の残業時間が100時間を超える外国人労働者もおり、働き過ぎが原因で亡くなってしまう過労死も起きている。この制度が始まって以降、この制度で来日した外国人労働者で自殺した人は既に29名いる。これに関しては重労働が死の原因と証明することは難しいのだが、「自殺したのが偶然日本だった」なんて、果たして言えるのであろうか?
「外国人研修制度」には抜け道も…
改めて考えてみると、このように情報が瞬時に拡散する現代において、このように働くことを容認する人がいるのはどうしてだろうか?誘って来た人の甘い言葉を信じている人も一部存在する。その一方で、これが新しいチャンスと捉えている人達も存在する。具体的には、日本に実務研修に来た外国人労働者の内、2015年に行方不明になった人の数は5,803人に上る。その半数以上が中国人、1/4がベトナム人、それ以外にもミャンマー人、インドネシア人、ネパール人がいる。1年で研修にやって来る総数192,000人と比較すればそこまで多くないのかもしれないが、こういった人達がいることもまた事実である。
「外国人研修制度」のこれから
制度自体に問題があると多くの点が指摘されている現状で、日本政府はどのように対応していくのだろうか?
外国人労働者は日本経済にとって不可欠な存在なので、更に受け入れを増やしてはどうだろうか?
日本人は就きたがらないのであろうが、患者・高齢者の世話をするスタッフが益々必要とされている現在においては、特に外国人労働者が必要と思われる。それでも良いのだが、労働者の報酬や暮らし向きが適切なものとなるよう、対処されることを期待したい。
あと何年もしないうちに、2020年東京オリンピックが開催される。東京は競技用の、また記念になるような新しい建物で溢れるだろう。
その建築物を見て、「建物が完成するまでに、この外国人研修制度でやって来た数えきれないほどの外国人労働者に依存しなければならなかった」実態について思いを馳せる人は一体何人いるのだろうか?東京オリンピックでの幸せを享受しない人たちによってスタジアムが建設されるということを。
Source: the MATTER