さまざまなデータを元に、タイ社会の知られざる一面などをお伝えしている「数字で見るタイ事情」シリーズ。当初は孤軍奮闘、短期で終了するのではと噂されもしたが、今では後発の応援団も加わって賑やかとなるなど、それなりの「企画」の目となりつつあるようだ。で、今回からはこれまでと少し変わって、タイの「司法」のお話。その第1回目は「タイの裁判制度ってどんなの?」の声にお応えして――。(数字はないけど)
現在のタイにおける最高法規は「2007年タイ王国憲法」。タクシン元首相退陣の引き鉄となった2006年9月の軍事クーデター後に制定された。この憲法にぶら下がるのが、民商法典、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の4つの基本法。こうした法体系を元に裁判所制度が形作られている。
タイの裁判所では、かつての日本と同じ職業裁判官のみによる裁判が行われている。アメリカのような陪審制はない。そのうえで、「2007年タイ王国憲法」は次の4つの裁判所を設置している。
①民対民の一般民事事件に加えて、税務・労働・知的財産・通商・破産等の裁判、並びに刑事事件を扱う「司法裁判所」
②法令が現行憲法に抵触するか否かの可否を判断する「憲法裁判所」
③民間企業/私人と政府機関/国家公務員間の紛争、あるいは政府機関/国家公務員同士の紛争を扱う「行政裁判所」
④タイ王国軍内における刑事事件を担当する「軍事裁判所」
このうち、①の「司法裁判所」はさらに、「通常裁判所」と「特別裁判所」に区分される。前者は通常の民事事件と刑事事件、後者は少年、家事、労働、税務、知財、通商、破産の各裁判を取り扱う。通常裁判所管轄の事件と少年、家事の各事件では三審制が採られているが、ほかの特別裁判所管轄の事件は二審制。第一審裁判所からの上訴は最高裁判所が受ける。
日本にはない裁判所が、②~④の各裁判所。面白いのは③の「行政裁判所」(二審制)で、政府機関との契約に関する紛争を裁く権限を特定の裁判所に委ねている。
今後、タイで事業をするなどして紛争に巻き込まれた場合は、相手が民間企業か政府機関かによって訴える裁判所が異なるので、覚えておくといいだろう。先日、anngleでも取り上げた日本のJTがタバコのパッケージをめぐって起こした裁判も、行政裁判所だった。
このほか、「憲法裁判所」や「軍事裁判所」も今、日本で何かと取り上げられるホットな話題だ。
司法制度。やや難しく硬い話ではあるが、異国に居住する以上、最低限度の知識は持っておきたい。次回は、タイにおける弁護士のお話。
さまざまな統計データを元に、タイと日本、タイと世界を比較するコーナーを新たに設けました。題して「数字で見るタイ事情」。ビジネスや経済ネタだけに限らず、タイ社会のちょっとした話題を提供します。不定期掲載。