狭いエリアに100近い屋台がびっしりと建ち並ぶバンコク、スクンビット・ソイ38の屋台街。会社帰りのOLや既にほろ酔い加減のサラリーマンが気軽に立ち寄るタイ料理のローカル飲食街である。テーブルの直ぐ横をタクシーが通るほどの狭い一角。ここに、名物の「飲み代を運ぶ犬」がいる。
名前は「ノムソット」。4歳の雑種犬。頼りない風貌だが、れっきとした雄犬だ。ホイ・トート(貝などと野菜の炒め物)などを提供するシーフード屋台で飼われている。
「チェックビン・ドゥーワイ!(お勘定して!)」。勘定を求める客の声が響くと、それまで地べたに寝そべっていたノムソットはムックリと立ち上がり、客のテーブルに向かって歩き出す。だが、その姿に勇ましさは微塵も感じられない。いかにも、けだるそうなゆっくりとした足取り。
「350バーツです!」。屋台越しに声をかけられた客は、足下にやって来たノムソットに向かって紙幣を差し出す。ノムソットはゆっくりと口を開くと紙幣をくわえ、店の奥にいる店主の元へ戻っていく。
飼い主の店主によると、ノムソットがいつからお金を運ぶようになったかは「マイ・ルー(知らない)」。ただ、それから僅かだが客足も多くなって来たといい、営業に一役買っていることだけは確かなようだ。