9年前にバンコクで就職したとき、採用担当の方(駐在員さん)から言われたことがあります。「あなたは日本人だけれど、あまり駐在員と仲良くしすぎてもきっとあなたがつらくなる。自分のためにもタイ語を学び、タイの人たちを理解して彼らと同じ場所で長く働くつもりで頑張ってください」。今回はこの言葉についてちょっと考えてみたいと思います。

現地採用の役割とは?
タイで働く日本人現地採用である私たちがタイで求められている役割とはなんでしょうか。駐在員でもなく、タイ人でもない。「日本人」ということがある種のブランドとなり、採用されている、果たしてどういう意味なのでしょうか?
長く住んでいる人を揶揄して「タイ人化してきた」などといいますが、中にはタイの人たちの考え方やペースになれてしまい「日本人としての価値」を発揮できずにいる人がいます。日本人を高いコストをかけても雇う理由は、その言葉に多くの意味が含まれていて、その価値を生かしてくれることを期待しているからだと思います。どんなにタイ語ができようとも、私たちは日本人であり、その「日本人」という言葉が内包する意味を考えておかないと、価値が薄まってしまいます。
接待も仕事!?
逆に、「日本人だから」と駐在員と同じような高みからタイ人スタッフに指示を出し、タイ人を小馬鹿にしたような態度をとる人もいます。果たしてそれは現地採用という立場ですべきことであり、会社が期待していることなのでしょうか?「日本人であること」に間違いはありませんが、「日本人だから」威張っていいというものではないはず。 タイ語がどれだけできようと、タイ人スタッフと駐在員以上に上手に付き合えなければ、その人の価値は薄くなってしまいます。タイ人スタッフに「あの人とは付き合いずらい」と思われてしまっては、会社に居づらくなるのは自分たちの方です。タイ人スタッフも駐在員に対しては「どうせあと◎年もすれば帰任だから」と我慢していることも、「この人は現地採用だからずっといるんだな」と思えば、気持ちの落としどころもなくお互い嫌な気持ちを抱え続けることになりかねません。
駐在員からみた現地採用とは
駐在員からの現地採用駐在員(マネジメントする側)からしても、タイ人スタッフとの間を取り持って、ミッションを遂行するためのチームを支えてくれるような存在がいないと困ることも多いでしょう。特にここはタイ、言葉も考え方も文化も違う人たちと共に働く場です。限られた任期の中でゼロからタイ人スタッフと関係を構築していくことは、駐在員さんたちには厳しいこともあると思います。日本人と働き慣れたスタッフを育てることは大事な使命ですが、その彼らとの間にたち、近道を示すことができるのは任期のない現地採用の強みではないかと思います。言葉や風習だけでなく、タイの人たちの考えていることややり方をアドバイスし、その間を取り持つことができるというのは価値ある現地スタッフではないでしょうか。
現地採用だからこそ
貴重な海外経験を活かす先に紹介した駐在員さんの言葉は、「日本人であること・日本人としての考え方をベースにして、タイ人の同僚とのパイプ役になってください」ということだったと私は解釈しています。 その言葉に従い、駐在員さんとは一定の距離を保ちつつ、タイ人同僚とは朝昼夜と同じ食事をし、社内のイベントなどにも積極的に関わるようにしてきました。時に「日本人とはこういう考え方をするもの」というアドバイスをタイ人スタッフにし、上司との関係がうまくいかない場合には相談にのることも。入社時に仲良くしていた同僚はみな退職しましたが、今でもそれなりにやっていけているのは、当時のこの駐在員さんの言葉が大きかったからだと思っています。