米国のスーパースター、レディー・ガガが、バンコク公演のため自家用ジェットでタイ入りした直後に、「バンコクで偽物のロレックスを買いたい」とツイートした“事件”は、タイ商務省知的財産局のPajchima Tanasanti局長が「タイに対しての侮辱だ」と反発するなど、大きな波紋となってその後もくすぶったままだ。タイ特別捜査局(DSI)もDVDやCDなどの海賊品(模倣品)の取り締まりを強化する方針で、タイ政府は「国家を挙げてイメージ払拭に努めたい」(商務省高官)としている。
レディー・ガガは5万人を集めたバンコク公演の2日前に簡易ブログ「ツイッター」に投稿。関係者によれば、公演直前の高揚した意識の中で「つぶやいただけで、悪気はなかった」としている。ところが、タイ政府関係者はこれに強く反発し、商務省知財局が在バンコクの米国大使館に対し、わざわざ「失望」を表明したほど。「彼女こそ重い責任を感じるべきだ」と発言する政府高官もいて、「怒り」は当分、収まる気配にない。
というのも背景には、なかなか根絶に向かわないタイの海賊品市場がある。Buisiness Software Alliance(BSA)によると、2011年のタイにおける「海賊品率」は72%と依然として高い数値を保ったまま(2010年は73%)。海賊品市場も8億ドル(約620億円)と巨額で、こうした現実が「ガガ発言」につながったと関係者は見ている。
ただ、タイ政府も手をこまねいているわけではない。「ガガ発言」より前の5月半ばには、DSIはタイ国立映画協会と連携して海賊品のDVDなどを密造していたミャンマー人らのアジトを捜索。1億バーツに上ると見られるDVDやCDなどを押収した。今後も取り締まりを強化するとしている。
こうした動きに、理解を示す国際世論もある。国際反模倣団体GACG(Global Anti-Counterfeiting、本部イギリス、ジョン・アンダーソン会長)は、DSIなど知財保護当局が海賊品の取り締まりを強化しているとして、2012年の国際反模倣賞を授与することを決定。タイ政府の知的財産権保護の姿勢を評価している。GACGは、米国、英国、フランス、ドイツ、デンマークなどの公共機関や団体が加盟する国際ネットワーク。
奇しくも「ガガ発言」で再び注目を集めるようになったタイの海賊品市場。近ごろは、DVDやソフトウエア以外にも、食品や化粧品の分野で知的財産権を模倣した商品が横行し、新たな問題ともなっている。これら新規海賊版商品は、当局の取り締まりを警戒して店舗を持たないインターネット販売(通販)が中心となっており、タイ政府も頭を悩ましている。