プミポン国王の崩御から1週間が経ちました。ネオンと音楽が控えられているバンコクの街はいつもに比べて静かです。街を行きかう人たちは追悼の意を表して黒や白・グレーなどの服を身に着け、南国らしい色使いの人を見ることはなくなりました。Facebookを見ても同僚たちが王宮へ弔問に行ったり、王様の写真や映像をポストしているのが毎日みられますが、だいぶ落ち着きを取り戻しつつあるように見えます。
いつもどおりに働くタイ人
悲しみの中にありながらも、タイの人たちの変わらぬ仕事ぶりには驚きます。近所のコーヒー屋台のおばさんは早朝5時にはお店を開け、夕方6時まで働きます。ソムタム屋さんは朝4時に市場に買出しに行き、7時にはお店を開け、夕方4時まで働きます。マッサージ屋さんも朝8時には起きて掃除をし、10時から夜8時まで働き、そのあとは一休みしてから朝4時までソムタム屋で手伝いをしています。私の周辺にいる、市井の人々ですらこのような状況です。企業で働く人たちも悲しい気持ちを持ちつつも、以前と変わらぬ様子で働いています。
タイ人が持つ強い向上心
タイ人がトレーニング好き、学ぶのが好き、というのはタイに働く人たちの間ではよく知られた話です。会社で用意しているスキルアップトレーニングだけではなく、大学での社会人向け講座も多いことから働きながら、社会人向けの週末コースへ進学する人も多くいます。身近なところでは経理で修士号取得を目指していたスタッフや、MBA取得のために社会人講座を受講している同僚が何名かいました。もちろん大学院などに限らず、語学学校で英語や日本語を学ぶスタッフも多くいます。その理由はさまざまで、仕事だけが動機ではないことも。
社会人になってからも学ぶ機会が多いこと・学ぶ場所があることは羨ましい限りです。ただ、その学んだことが実践でうまく活かされないというのもよく聞く話。たとえば「報連相」と呼ばれる、日本人にはおなじみのアレ。トレーニングに送り出してもなかなかこれが実践にむすびつかない。何を学んだかのレポートを出させると要点を理解していないわけではないのですが、どうも学んだことと実務を結びつけることが難しい場面があるようです。また、エクセル研修などもかなりみっちりやっているにもかかわらず、やはり実務に結び付けられず、研修の効果を疑うようなケースも身近で見てきました。
じっくりと会話してからの、動機付け
このようなところだけを見て「怠け者だ」とか「研修好きなわりには実にならなくて無駄だ」などという人がいますが、個人的には必ずしもそうは思いません。目的意識さえ伴い、研修に送り出す側の思惑・背景もきちんと理解してもらえれば、学んだものをうまく活用する人が多数です。ただ、それにはじっくりと会話をし、相手の適正や考え方を理解して動機付けをする必要があるのではないでしょうか。そもそも異なる文化・教育システムで育ってきているのですから、新しい考え方を導入するときに多少手がかかるのは仕方がないことです。
5年ほど前に私の部署にタイ人のスタッフが入ってきました。日系企業勤務は初めてだったので、日本人と仕事をするうえで「報連相」がいかに大事かを何度か説明しました。しかしある日、「報告がなかった!」と別部署の日本人マネージャーに怒られてしまいます。よくよく話をきくと「報連相のコンセプトはわかっているつもりだが、どのタイミングで実行したらいいのかわからなかった」とのこと。
非常に熱心なスタッフですが、「タイミングがわからない」ためにミスをしたと思われてしまったのです。そこで実際に何が問題だったのかに触れながら、「とにかく事態が変わるときにはひとこと相談しなさい」「半歩先を見越して報告しなさい」と説明し、「相手は日本人だからね、考え方は違うからそこはわかってね」と伝えたところ、その後は同じミスをおかすことなく、今では日本人駐在員にも信頼されるスタッフとなって働いています。
資格が転職に有利ということはあるでしょうが、実際に使えなくては意味がないのが研修や勉強。立派な肩書よりも実際になにができるか、なにをしてくれるのか、そこが大事ですよね。
今の混乱必至といわれた状況でも粛々と日常を送るタイの人たちをみていて、非常に「勤勉」で「まじめ」だという思いが強いです。この性質をもっともっとよい形にできたら…!そう思いながら私も日々、タイの人たちとお仕事をさせてもらっています。