「おじさん!私の手相を見てもらえますか?」
「はいよ、両手を広げてごらん!」
タイの名門チュラロコーン大学(バンコク)構内の夕暮れ時。一日の授業を終えて家路につく学生たちが、必ずと言っていいほど立ち寄るのが「ルン・クルット(フルーツおじさん)」の屋台。
屋台と言っても、年季の入った水色のベスパの荷台に、大きな銀色のケースが括り付けてあるだけ。中にはこぶし大の氷がまんべんなく敷き詰められ、その上には色とりどりの果物。丁寧にカットされ、袋に詰められている。
メロン、スイカ、パイナップル、マンゴー…。1袋どれでも20バーツ(約50円)。「今日はどれにしようかな?」。一日何時間も机に向かえば小腹も減る。夕飯前のちょっとしたおやつタイムに、学生たちの笑顔がこぼれる。
フルーツおじさんは今年、満60歳を迎えた。33歳のときからチュラロコーン大学構内でカット果物を販売しており、間もなく足かけ27年。15年前までは10バーツだったフルーツも、物価の上昇とともに今では倍になった。
大学では10年ほど前に学内への屋台立ち入りを禁止する規則を制定。このため今では、おじさんの他に構内で物品を売る外部業者は一切ない。だが、おじさんだけは別格。規則の制定前から営業し、学生たちの人気も高いことから現在も別枠で営業が認められている。
フルーツおじさんの人気は、美味しい果物だけにとどまらない。独学したという手相占いで、学生たちの相談に乗るのもおじさんの日課だ。
「おお、君のはとても良い運命線だ。きっと良い出会いがあるよ!」
「おじさん、僕のは?」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ!」
おじさんの回りから人が途絶えることはない。その合間に、カット果物が1袋また1袋と売れていく。おじさんは買った、買わないにかかわらず、どんな学生からの依頼にも応えて手相を見ていく。あっという間に2時間あまりが経過していた。
「さあ、今日はもう売り切れ。店じまい。また明日。気をつけて帰るんだよ!」
そう言葉をかけるフルーツおじさんに、学生たちも手を振って「おじさんも、もう転んだりしないでよ。また明日!」と元気に答えていた。