スコータイ市街から世界遺産に登録されている遺跡公園まで、まっすぐ伸びる道がある。この道沿いのある場所に、後ろ足の一本ない犬がいる。一本しかない後ろ足を軸にして上下にピョンピョンと跳ねるようにして駆けるので、よく目立つ。
私がサンボンアシに興味を持ったのは、その人懐こさのせいだと思う。サンボンアシは、ほかの人懐こい犬たちよりもさらに人懐こかった。何かの理由で足を失った彼がここまで人懐こいのは、人に優しくされたからではないかと思った。怖い思いをすると警戒心を強め、臆病になる犬も少なくないのに、そういう感じがまったくない。
サンボンアシはヌアンというメス犬といつも一緒にいる。仲は良いが夫婦や恋人ではないらしい。相棒といった感じだろうか。愛嬌のあるかわいらしい顔をしたヌアン、彼女もまたサンボンアシと同じようにとても人懐こい。
私は、彼らがどうしてこんなにも人懐こいのか気になった。2回目に彼らに会ったとき、それがどうしてなのかよく知ることができた。
朝、サンボンアシとヌアンは路地を少し入ったところの民家の前にいる。その家のおばさんが夕方から出す屋台の停めてある辺りでゴロゴロしている。お昼も近くなると、彼らはなぜか路地を出た先のべつの商店の軒先にいる。そこで、まるで自分の家のように好き勝手にゴロゴロしている。
夕方になると、その商店の前の道にお菓子を売る露店が出る。その露店のおばさんもまた、この2頭をかわいがっている人たちのひとりだ。サンボンアシとヌアンは、とてもたくさんの人たちに優しくされている。きっと、だから人懐こいのだと思う。人が好きなのだ。
お菓子を売っているおばさんの話だと、サンボンアシは数年前に交通事故で足を失ったらしい。そのときは彼女が病院へ連れて行き、手術と治療を受けさせたという。
そのあとに、サンボンアシは今度は大病を患った。高い熱が出て下がらなくなり、死にかけて寝たきりになってしまったのだ。しかし、そのときも病院での治療とおばさんの看病で生還した。今は毎日元気に3本の足で駆け回っている。
おばさんからサンボンアシとヌアンの話を聞いていると、バイクに乗ったべつのおばさんがやってきて、何やらビニール袋に詰まったものを置いていった。中には炊いたお米や、肉や魚が入っている。2頭の犬たちの夕ごはんだ。
彼らを気に掛けて世話している人たちは、いったい何人いるのだろう。飼い犬と違い大勢の人たちに優しくされているサンボンアシとヌアンは、だから誰にでも人懐こいのだ。
タイではこうやって人に優しくされ、人によく懐いている野良犬をときどき見かける。誰かに優しくされるとうれしい気持ちになるのは、人も犬も同じなのかもしれない。