以前、郊外の人気のない大きな空き地で、群れで行動している野犬のグループを見たことがある。その犬たちを見て、人のいないところで野生化し、動物本来の姿に戻ったような、そんな印象を受けた。でも、犬の場合、それが自然な状態であるとは限らない。
太古の時代、人は、野営の際に、近くに集まる犬たちに食べ残しを与えたという。そうして犬たちは人の近くに居着き、人は夜間に大型動物の脅威から逃れ、ぐっすり眠ることができるようになった。人と犬との付き合いは、そういう偶然から始まったらしい。それから数万年、犬は人との共存を前提に進化してきた。犬には、野山や大自然の中で暮らすよりも、人里で人と共に暮らすほうが自然なのかもしれない。
現代の犬たちは、人と街が寝静まるあいだはどこにいるのだろう。少し歩いて見るとよくわかる。夜遅くまでやっている路上の屋台や、朝早くから動いている生鮮市場。住宅街では、マンションやアパートの警備員の詰所の近くで寝そべっていたりする。コンビニエンスストアーの前でもよく見かける。犬たちは、人のいない静かなところにはあまりいない。たいがい人の近くにいる。
人の暮らしのすぐ横に犬がいる社会。捕獲、収容、処分などで街から犬を排除する国や地域が多い中、タイ国内ではたいがいどこに行っても犬がいる。そんなタイ社会の自然な姿には、ほかの国にはない魅力を感じる。