先日、タイ・サムットソンクラーム県のメークローンというところに行ってきた。国鉄メークローン線の終点で、線路上の生鮮市場が列車がやってくるたびに、いちいち片付けられる様でよく知られるところだ。
静かな駅構内の手前には踏切があり、そのさらに手前の一帯に市場が広がる。線路の上を歩いて市場へ入っていくと、両側に野菜や果物、海産物などが並べられている。売り物はレールの上にまで飛び出していて、だから列車が来るときにはそれを引っ込めなくてはいけない。物を売る人たちと買いに来ている人たち、その合間を縫うように歩いて行くと、やっぱり犬がいた。
野生の動物といえば山や森、草原などの自然の中にいるイメージがあるけれど、犬は違う。犬は何万年も前から人との共存を前提に進化してきた稀有な動物で、その本質はこうしてタイの街を歩いてみるとよくわかる。犬は、人のいない空き地などよりも、
市場や屋台街、バイクタクシーの集まっている場所や、深夜はマンションの警備員の詰所の近くなどでよく見る。犬は人のいるところにいる。
ここメークローン市場にも、人の生活の営みがあり、犬がいた。こうした風景はタイ国内のあちこちで見ることができる。タイの人たちの多くは、犬たちを特別に愛でるわけでも、追い出すわけでもなく、ただ共に暮らしている。
あるとき、私はそんな人と犬が共存する社会をもっとよく見てみたくなった。そうして、数年ほど前から、あちこち出かけてはタイの犬たちを撮り歩くようになった。