タイで乗れるSL列車
タイ国鉄では、年に5回程度SL(蒸気機関車)列車が運行されます。日本でも老若男女問わず大人気のSLですが、タイでも同様に多くの国民に愛されています。SL列車は、現国王や王妃、前国王等の誕生日を祝う特別列車です。これら誕生日は祝日になっているので、運行日は容易に見つけ易く、日本人向けの旅行会社もツアーを販売しています。SLだけでも大変楽しめるコンテンツですが、さらに200%楽しめる深~いポイントをお伝えいたします。
栄光の5番線ホーム
SL列車は、必ずバンコク駅の5番線を8時5分に発車します。この5番線はタイ国鉄にとって特別なホームです。鉄道を敷設しタイの近代化を推し進めた国王ラーマ5世は鉄道の父と呼ばれ、駅構内に大きく肖像画が飾られており、5世の「5」が付く5番線は特別な場所になっています。余談ですが、今般の新型コロナウイルスの影響でほとんどの列車が運休した結果、車両を置いておく場所が不足してしまい、バンコク駅構内にも停めることにしましたが5番線だけは空けていました。世界的な危機でもちゃんと鉄道の父を敬う素晴らしい心意気です。
笑顔に出会った数だけ強くなれるよ
出発前にはSLの周りに人だかりが出来ています。SLを背景に記念撮影をしようとするタイの人たちはみな笑顔でいっぱいです。ふと振り返ると駅の片隅にある鉄道発祥を標すモニュメントの前でタイ国鉄職員さんが安全祈願をしています。
発車時刻5分前、毎朝8時に放送される国歌が駅構内に流れ、タイ人はその場に立ち止まり心の中で歌います。一瞬、時が止まったような錯覚になります。そして、出発の鐘が駅構内に響き、SLの甲高い警笛が鳴り、8時5分、大量の蒸気を吐きながらゆっくりと発車していきます。この出発までの一連の流れは、国王への敬意を示すこの日一番の盛大な儀式であり、大変迫力があります。
列車が走りはじめると至る所で、屋台のおばちゃんやトゥクトゥクのお兄さん、遊んでいる子供達がみなSLに目を向け、手を振っています。走行中のバイクやタクシーも速度を緩め、SLと並走したり、時には目線がSLに釘付けとなり追突しそうになったりするシーンも見ることができるかもしれません。各駅では清掃ボランティアのおばちゃんたちが満面の笑みで手を振って列車を見送ってくれます。
また、車内や到着した駅で「SL TEAM」というTシャツを着た青年を見かけるでしょう。彼らはSLを愛し、未来永劫走り続けられるよう清掃保守点検のボランティアを行う学生チームです。油まみれになりながらも笑顔でSLを磨く姿、異常がないか最後まで点検しつづける真剣な眼差しは、異国でも鉄道が愛されるコンテンツである証拠です。
駅に到着すると、運転席に載せてくれたり、一緒に記念撮影してくれたりとサービス満点のタイ国鉄職員さん。SL列車は終始、たくさんの笑顔に包まれて走ります。
輝くメイドインジャパン
この素晴らしいSL列車は、実は日本製の蒸気機関車と日本の客車をベースに製造された車両で運行されているのです。特に蒸気機関車には製造メーカーの川崎重工業、日本車輛製造の文字がしっかりと刻印され、煌びやかに輝いています。
多くの人たちに注目され、タイ王国の国王の記念日を祝い走る特別列車が日本製であること、これはものづくり大国と呼ばれた日本の技術が異国で高く信頼されつづけている紛れもない証拠です。このプレートを見た瞬間、きっと日本人として生まれた誇りを感じ、身震いするでしょう。根拠や確信はなくとも、日本をもっと素晴らしい国に、日本がもっと世界に貢献できるよう、自分もがんばりたい、そう感じてもらえると異国でのSL列車の旅の喜びも一入です。SL列車を細かく探ってみてください。あなたの視点でいろいろな発見に出会えることでしょう。
(追伸)蒸気機関車2両で10両もの客車を引っ張るのですが、日本と違って2両の蒸気機関車がそれぞれ逆向きになって繋がっています。記念すべき日の列車ですから行きも帰りも機関車が前を向くように工夫しているのですね。ちなみにこの蒸気機関車は環境対応のために石炭ではなく重油で走っています。