タイのローカル列車は貧困層の移動手段
タイ国鉄の普通列車の運賃は異様に安い。鉄ちゃんにとって天国のような場所です。例えば、バンコクからアユタヤまで約70kmの距離を普通列車で移動した場合、15バーツ(約50円)、JR東日本の幹線区間70kmの普通運賃が1,140円なので、両国の物価の差どころではないことがお分かりいただけると思います。
タイ国鉄は日本の国鉄末期と同じく万年赤字と言われていますが、日本の国鉄と違い、列車に乗ってみると乗客で溢れていることが多く、この採算度外視の運賃が一つの要因となっていると思います。この安価な運賃設定は、世界一とも言われる格差のあるタイの社会構造の表れで、タイ政府の統計では一人当たりのGDPが農村部の東北地方と首都バンコクで5.6倍も差があります。北海道と東京で所得が5.6倍も差があると考えると恐ろしい格差ですね。
タイ政府は低所得層に配慮する施策の一つとしてタイ国鉄を生活の足と位置づけ、このような安価な運賃設定をしているのです。
笑顔は、1日1日を生きようとする強さの表れ
タイ国鉄の普通列車では一般住民による車内販売が行われています。肩や肘にジュースや焼き鳥、トウモロコシ、パッタイやガパオライスがぎっしり詰まった大きな籠を掛け、乗客一人一人に笑顔で「アロイマー(美味しいよ~)」と声を掛けて売っています。どれも1個20バーツ(約70円)もしないものばかりで、全部売れたとしてもとてもまとまったお金になる商売とは思えません。彼ら・彼女らには、日本のような生活保護制度はありませんから、1日1日の生活が列車での車内販売に掛かっているのです。
駅ホームを見ていると子供からおじいちゃん・おばあちゃんまで一家総出で列車に乗り込み、販売している光景もあります。しかし、普通列車は低所得者層が乗客の中心ですからなかなか売れません。さっきまで満面の笑顔だった売り子さんが肩を落として駅で降車する姿は、タイで日々生きることの難しさを改めて考えさせられます。
日本にいると、将来が不安でやりたいことが出来ない、日々の生活を考えることで精一杯という声を多く聞きますが、今日もタイの普通列車で今日一日の生活費を稼ごうとがんばっている彼ら・彼女らにそんな台詞は言えません。
私たちは日本に生まれたことを理解し、不満を言う生活を辞め、どんどん挑戦をしていくべきです。きっとたくさんの挑戦の中で彼ら・彼女らの生活も良くするイノベーションが生まれるはずだから。