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タイ人研究者と政治セミナー

1973年10月14日「学生革命」と1976年10月6日「血の水曜日事件」に関する展示 Photo by Toyama
1973年10月14日「学生革命」と1976年10月6日「血の水曜日事件」に関する展示 Photo by Toyama
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大学では、毎年多くのセミナーが開催されている。一般市民向けの公開講座から研究者が集まる学会まで様々な種類がある。タイでも同様の状況で、タイの歴史において民主化運動の中心にあり続けてきたタムマサート大学では、特に多くのセミナーが開催されている。取り上げられるテーマは、歴史、税制改革、格差問題、土地問題、法律、司法改革、アセアン諸国との関係など多岐にわたる。

タイの大学で開催される政治セミナー

 これらのセミナーの中でも目を引くのが、政治関係のセミナーである。週末などに開催される政治セミナーは、民主化運動を行っているNGOや活動家グループが主催していることが多い。聴衆は、若い学生の姿も散見されるが、大半は年齢が高い(おそらく60代から70代)の一般市民である。他方、壇上で講演を行うのは、タムマサート大学やチュラーロンコーン大学などの研究者たちを中心とする知識人たちである。マスメディアも取材に訪れ、多数のカメラが並ぶ。登壇者が軍事政権に対する批判を行うと、会場からは喝采が起こり盛り上がる。

 タイでは、大学教員を中心とする知識人らの政治的役割が大きい。特に、1973年10月14日に軍事政権を打倒した「学生革命」に参加した世代、通称「Octoberist」は1970年代から現在に至るまで、幾度も政治運動をけん引してきたことで知られる。現在では30代から40代の若い世代の中にも、民主化運動に積極的に関与する研究者が登場している。

研究者たちは、聴衆が漠然と感じている「現在の政治はおかしい」という思いを、他国の事例などと比較したり、政治学の理論などを使用するなどして整然と説明することによって、一般市民の政治に対する理解をけん引している。また現在では、セミナーの様子はフェイスブックやツイッターを通じてライブ配信されることが多く、ネットを通じて多くの人々に拡散されている。このようなセミナーは、タイの民主化に向けて重要な役割を果たしているといえよう。

タムマサート大学 Photo by Toyama
タムマサート大学 Photo by Toyama

政治セミナーから浮かび上がるもの

 しかし、政治セミナーを幾度も観察していると、タイ民主化が抱えている問題点も見えてくる。実は、研究者たちも大半は保守的傾向を持つ人々であるため、このような政治セミナーの壇上にあがる人々の顔ぶれは固定している。また会場まで足を運ぶ聴衆についても、固定しているように思われる。幾度もセミナーに参加していると、逆にこちらが覚えられてしまう。ネットでの配信もあるとはいえ、どの程度の広がりを持つのか判断がつきかねる部分もある。

そして最も印象的なのは、聴衆の非常に受け身な雰囲気と、登壇者たちの主張の内容である。セミナーは3時間以上に渡るものが多いが、年齢の高い聴衆たちは途中で席を立つことなく熱心に耳を傾けている。その様子は、まるで寺院で僧侶の説法を聞いているような感じにも見える。とあるタイ人研究者は「タイ人は本を読んだり、自分で考えたりすることは苦手だけれども、偉い人の話を聞くのは大好きなのだよ」と教えてくれた。

 聴衆たちは、壇上の研究者たちが「素晴らしいこと」を言ってくれるのを、耳をそばだてながら待っている。登壇者たちは、それぞれ、政治学、法学、経済学、または社会学などの学問的なバックグランドを持っているが、このようなセミナーの場においては、為政者を非難する発言を繰り返す傾向にある。また、民主化運動において犠牲になった人々に対する人権侵害を非難することも多い。会場に来ている聴衆の中には、タックシン元首相の支持者とみなされることが多い通称「赤シャツ」の人々も多数参加している。彼らは、登壇者から軍事政権に対する批判が出ると、喝采を送って盛り上がる。

 大学で開催されることの多い政治セミナーは、登壇者に多数の研究者が含まれているものの、「なぜタイ民主化が頓挫したのか」という点について学術的な見地から冷静に議論するというよりは、一種の政治集会といった様相を呈している。人権侵害、クーデタ、言論の自由の弾圧、司法が中立ではないなど多くの問題点が指摘されるものの、タイが目指す「民主主義」とはどのようなものなのかという点については全く考えが見えてこない。

 幾度もセミナーに足を運んでいると、会場では「理想」なくして「非難」ばかりが先行しているように感じられる。忘れてならないのは、現在、軍事政権を批判している知識人の中には、2006年に民選政権であったタックシン政権を打倒するために、反タックシン運動を主導した人々も含まれているという点である。彼らが、民選、非民選を問わず為政者に反発し続けるのは、「学生革命」の成功という記憶から抜け切れていないからなのかもしれない。

今後の課題とは

 政治セミナーについて、筆者と同様の感想を持つタイ人研究者も存在する。チュラーロンコーン大学のとある研究者は、「タイでは政治系のセミナーは政治集会になってしまう。きちんと学術的に議論する場が必要だ」と語る。セミナーが政治集会化しやすい状況では、学術的内容であっても口頭発表をすることが憚られる。

研究者たちの政治運動への関与については否定しないが、政治運動からも軍事政権からも一定の距離を置き、学術的視点からタイ民主化の問題点について冷静に分析を行い、今後の目指すべきタイ民主主義の姿と課題について提示することも重要ではないだろうか。

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