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タイのとある田舎の風習

タイのとある田舎の風習

この時刻に竹を切り出してる人・・・

ここはバンコクから800kmのイサン地方です。ウドンタニから100kmカンボジア方面に向かうところの途中に妻の家があった。

そこでは未だにタイのTVで見るお化けの存在が村人に信じられていた。私と妻は新年かソンクラーン近くになると義母の顔を見に出かけていた。今回も900km先の妻の実家に到着するともう妻の兄二人が着ており、酒盛りの最中だった。私は近くの酒屋で購入したウイスキーとビールを出すと私を交えての酒盛りが始まった。男3人ほど集まると宴会も勢い着いた。差し入れのビールやウィスキーは瞬く間に無くなった。

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日本人はこの地区では私一人と言うこともあり買出しに向かうのは私だった。私が追加の酒を買って帰るともう日がとっぷりと暮れていた。私はビールやウイスキーを二階の広間に運ぶときだ。家の奥は畑と竹薮が広がっており竹薮に灯りが2つか3つほどが私の目にボーと映った。私は酔いもあり「この時刻に竹を切り出してる人がいるんだな?」ぐらいにしか思わなかった。

兄たち酒を届けるとまた宴会が始まった。この宴は1年何回もあるわけではないので妻たちも多目に見てるのである。私は運転や酒の席での気疲れからいつの間にか寝てしまった。義兄たちが寝る中で私もごろ寝してしまった。

夜中の不思議な光景

私は尿意が起きて目が覚めた。時計を見ると時刻はAM1時を回っていた。みんな寝静まった時刻なので、足音を出さぬように抜き足、差し足で廊下を抜け下に続く階段を降りようとしたときだ。また夕方の光景が竹薮で起きていた。今度は真っ暗闇にくっきりと青白い炎が私の目に飛び込んできた。私は「人魂だ。」と心の中で確信する叫びをあげると尿意など忘れて階段を駆け降り竹薮に近づいて行った。

私はタイで初めて見る人魂に魅入られたように周りなど気にも留めず近づいて行った。近づくに連れて人魂の炎は増したような気がしたまた目を凝らし人魂の飛ぶ姿と人魂の明かりに照らされて見える別の物が眼に入ってきた。私は心の中で声にならない声を上げた。

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「瓶だ。どうして瓶が3つあるんだろう?」そう思うとますます不思議に思い、また一歩また一歩と竹薮の奥へと足を踏み入れて行った。私と人魂と瓶の距離が1.5mほどに近づいた時だ。突然。私に気づいたのか人魂が蜘蛛の子を散らすようにどこかに飛んで行ったしまった。人魂が飛び去ると闇が訪れた。真っ黒な瓶とそこの中心に刺さる棒だけが闇の黒さより増して真っ黒な姿に私の目に映った。目を凝らしさらに見据える私。また黒い雲の切れ目から月が現れ真っ黒にそそり立つ瓶と棒を照らし始めた。私はそれを待ってたかのように子供が恐る恐る近づくようにソット近づいて行った。

細長い瓶の全体が見えてきた。逆さにされた瓶の中心に向かい太い丸短棒が瓶をささへ丸太棒は竹の根の間をうまくかいくぐりいかにも深く地面に深く深くささっている様に見えた。再び月が真っ黒な雲の陰に入り見えなくなるとその壷を刺した棒も闇の中の吸い込まれるように消えた。瓶も同時に私の前から消えた。再度月の明かりに照らされると今まであったはずの瓶も丸探棒も私の目の先から消えていた。ボーとして、どこに行ったのかと目で周りを探るようにしている私の後ろから声がした。

「夜中に何をしているの?」私は驚き首をすくめて振り返ると、そこには妻が立っていた。妻は「どうしたの?こんなところで。おしっこ?」と言うと急に忘れていた尿意を思い出し駆け足で家に引き返し便所に入った。用を足し終わると上に引き上げてまた酔っ払ってる兄たちの間に入り休んだ。

義母の隠し事

朝が来て私が目を覚ますと兄たちの姿は見えなかった。私は台所に行くと水をもらい顔を洗いタオルで顔を拭きながら、夜中の瓶の事や人魂を思い出し窓の外に広がる朝もやに煙る竹薮をジーと見つめていた。もうあの光景は見えない。ただ竹がいっぱいある景色だけだった。後ろから妻が話しかけてきた。「夜中に竹薮で何してたの?」私は「人魂と瓶に刺さった丸太棒が見えたから近くまで見に行った。」と言うと今度は義母が「朝から何の話だい。」と私と妻に近づいてきた。妻はイサン言葉で母親に昨日の事を話し出した。

話し終わるか終わらない内に義母の顔は鬼の形相に変わって行った。私は妻が義母に「何かとんでもないこと言ったかな?」と思った。すぐ義母は何かを妻に伝えると家を後にした。2時間後。義母はお坊様を3人連れてきた。妻の姉や兄は何事が飽きたかと義母に詰め寄った。

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義母は「これから拝んでもらい、この竹薮を潰す。」と言うとお坊様と一緒に祭壇を作り始めた。兄や姉親戚は呆然としていた。妻は「あんたが余計なもの見るからこうなったよ。」と怒っていた。妻は「私の制だ。」と怒る口調で言った。私は正直に話したつもりだったが再度義母に直接聞くことにした。

私は「お母さん。私が見た人魂と逆さに置かれた3つの壷は何か縁起が悪いのですか?」そういうと義母は「良いから外国人は黙ってみてなさい。」そういうと花やお供えを飾りだした。もう妻も通訳をしなくなった。私は後ろで見ていた一人の坊様に尋ねた。

竹薮の怪異と義母の怒り

私は「何で竹やぶをつぶすとか、御祓いをするのか?私の見たものはそんなに縁起が悪かったのか?」そういうとお坊様はみんなの居ないところまで私を連れ出し説明を始めた。お坊様は「あなたの見たものは大昔の霊です。人魂ぐらいではこの儀式は行わない。問題は壷ですよ。おまけに3つも出てきては、取り払えるかどうか?」というと口をつぐんでしまった。

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何も知らない私は「竹薮に杭をさして壷を乾かしてただけじゃないか?」そう考えると腹が立ってきた。私は朝飯を食ってないことを思い出し下の部屋の冷蔵庫から食えるものを出すと炊いてあるご飯をよそり食べ始めた。下では竹薮の前に人だかりが出きていた。村をあげて人が集まってきた。それも年寄りばかり。お坊様が3人座り竹薮に向かいお経を上げ始めた。ご飯を食べ終わり二階の窓から見ていた私を妻は両腕を振り「降りて来い」とのジェスチャーをしていた。降りて行くと人ごみを掻き分けて私をお坊様の後ろに座らせた。

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義母は私が横に座ると頭を下げろと私の頭を強く後ろから押してきた。私は私の国のお経を唱えながら両手を合わせ拝んだ。義母は何やら話しかけるが私は理解できず、拝みを続けるばかりだった。しばらくするとお経が止み義母が妻を呼び話し始めた。

義母は「お前が見たものは恐ろしい幽霊だ。壷の中には生首が入っていた。それに人魂まで現れた。これを見たものは普通なら獲り殺される。昔からこの村では言われている。判らないのは幸せじゃ。タイ人だったら気が狂ってる。」そういうとお坊様を呼び、何やら話すと私の周りに3人が円を描くように並び拝みがはじまった。拝みは私が測った限り1時間は拝んで居ただろう。拝みが終わると私を3人の坊様の前に座らせて、何やら話し始めた。その話は妻によって私に伝えられた。

風習と祟り

「昔、大昔。この村では夜這いが盛んに行われていた。しかし格式を重んじるタイ人だからその行いを罰するために夜這いした者とされた者の首を跳ねて、見せしめに首を太い棒に刺し見世物にした。夜になると大きな壷を頭からかぶせ、逃げられないようにした。だから、その壷が現れたところはお払いをして成仏を願う、」それを聞いた私は思わず吐き気を催してしまった。お坊様はさらに続けて話した。「幸いお前の後ろには凄い霊が憑いていたので命は取られなかった。普通なら取り殺されている。それにこの竹薮はもう終わりだ。」それを聞くと私も納得して義母の脇に行き謝ると義母は「知らないと言うことは本当に幸せだな。」と言うと笑い出した。それにつられるように後ろに居た兄や姉、近所の人が笑い出した。

私は逆に「何が面白いんだ。俺は獲り殺されるところだったんだ。」と思い笑いに参加できなかった。午後になるとユンボが庭先に来て竹薮を潰し始めた。私や妻や兄妹は家の中から眺めていた。ものの2時間で竹薮は潰された。次に大型ダンプが来て潰した竹を積めて引き上げていった。それを見送る義母に笑みが戻っていた。その日の夜は日中の事が嘘の様に前の日より盛大な宴会が始まった。しかし私は宴会に参加するのをためらっていた。兄たちの勧める酒もまずい物だった。妻だけは私と同じように神妙な顔つきで見ていた。

次の日。私を更なる恐怖が襲ってきた。朝起きると妻の様子がおかしい。私に向かい妻は「これから町の銀行に行きお金を引き出すよ。」と言うと出かけていった。妻が戻ると私にそっと領収書を差し出した。そこにはユンボの代金、トラックの代金、お供え物、お坊様のお布施。と書いてあり、なんと8万B余りの請求だった。私が恐ろしいお化けを見たばかりにこの金額が生まれてしまったと私は後悔していた。帰るまでに忘れようと努力したが霊より怖い物があることを思い知らされ、その打撃は尾を引いた。私はタイの霊やお払いはお金が掛かる事を改めて認識した。

私はTVで幽霊や妖怪が出てくる度に8万Bの支払いの事を思い出すようになった。

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