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ゴスペル

ゴスペル

タイの山は怖い。

誰も登ろうとしない。ジャングルのようにうっそうと茂る密林には色々な亜熱帯の動物が生息し植物が生い茂っている。高い山にも低い山にも決まってニシキヘビやコブラが居る。得体の知れない虫や蚊の群れがうごめく世界もある。だから現地人も山には登ろうとしない。

そんな山に私をはじめ3人のタイ人と登った時の話だ。私は昔から山が好きでタイに着てからも時々案内人に金を渡し山に登る事があった。この日は地元のタイ人の友達3人と登り慣れた山に向かった。タイ人3人は会社では私の部下でよく酒を飲んだりしていたので私は仲間意識が出て職場でも結構この3人には気を使っていたつもりだった。山の傾斜は急ではないが木の枝やツルや見たことも無い原色の葉や花が生い茂る。

道は細く獣道に近い道が上へ上へと伸びていた。私を含め4人は一列に並び枝や草を払いのけながら一歩一歩山頂目指して歩いて行った。私は列の一番後ろを蒸し暑さの中滝のように流れる汗をぬぐい3人から離れまいと懸命に進んで行った。しかし若い3人を追いかけるのがやっとの状態だった。

次第に私は3人から引き離されて行った。3人が私の視界から消えるのも時間の問題だった。私は3人が通り掃い残した道を掻き分けた跡や時々現地の歌であろう奇声にも似た叫び声に耳を澄ませて登り進んで行った。要約3人は私が着いて行けないのが判ったのか坂を戻ってきて今度はゆっくりと私に合わせるように歩き始めた。彼らはこの蒸し暑さに慣れてるせいか汗ひとつかいてない。それを見た私は何か彼らに不気味さを感じ始めた。

山の上の声

3人の内の一人が駆け出して獣道を先導し始めた。ようやく足取りがゆっくりになり私も先の事を考え出した。先導の一人はジャングルの緑の中にいつの間にか消えた。登り始めて1時間。遠くの方で先導したいたANANの声がかすかに聞こえた。ANANは「山の上の方から声が聞こえる。」と下の私たちに向かい叫んでいた。それを聞いた私たち3名は立ち止まり山の上に向かい耳を傾けた。ジャングルの上に消えたANANだけが聞こえてるようで私たちには何も聞こえなかった。

残された二人のタイ人は私の両脇につくとゆっくり私に合わせるように歩き出した。もう時期頂上だろうと思うころ先人のANANが一人坂を転げるように私たちに駆け寄って着た。先人のANANは「頂上付近で歌を歌ってる声が聞こえた。」と言うとANANは怖気付いたのか、私の後ろに周り私の後を追うようになった。

大きな赤茶色の石が獣道の両脇に何かの標識か道標べのように置かれていた。その石に気が着いたのは私一人だった。私は心の中で思った。「ここは昔誰かが毎回大勢で登って行った道では無いのか?」私は彼らに恐怖をあおる様でその事は黙認した。その置石は山の奥へ頂上へと続いていた。私の後ろに居たANANは突然「中腹より先には行かない。」と言うと立ち止まり動かなくなった。

ANANの行動を戸は裏腹に私はしたたり落ちる汗をぬぐいながら耳を澄ませていた。鳥の声や何かの獣の声に混じり、微かに歌声が私の耳にも聞こえてきた。その歌声はタイ語ではなく英語のように聞こえた。
私は「どうしてこんな山奥の道も無い所で歌を歌っているのか?」と思うと興味が沸き、暑さや疲れを忘れ彼らの先にたち歩き始めた。歩くこと10分。。。。。。頂上らしき平地に出てジャングルはいきなり開けた。頂上らしきところには草木が一本も生えていなかった。

30mほど拓けたところの中央にもう廃屋の屋敷らしき面影を残した木切れや柱が散乱していた。それを見たタイ人3人は怯えて近づこうとしない。何も知らず、怖いもの見たさの私一人が徐々に近づいて行った。近づくに連れて私の耳には「ハレルヤ」という言葉が耳に大きく聞こえ始めた。

焼け焦げた木切れやガラスの破片それに柱が折れた跡私の目には歌元の人は見えないが、歌だけは鮮明に脳裏に焼け付くように響いていた。私は更に瓦礫の跡を目指して奥へと進んだ。歌声は大きくなり私の耳にはキンキンと言う音が響き始めた。

奥の方には柱が折れて粉々に砕け散ったであろう木切れが散乱してるのと昔の教会らしき祭壇が見えてきた。私は家の中心だったであろう中央を目を凝らして見るとそこには大きな杭が真っ二つに割れてその割れた杭のY字型の付け根に何か光るものを見つけた。陽の光が当たりキラキラと輝いていた。私はさらにその光るものが何か確かめたくなり近づいて行った。

私の耳には大聖堂で歌ってるかのような「ハーレルヤー。ハーレルヤー」と言う歌声がこだましていた。光るものが目の前1mぐらいのところに見えた時、その正体がわかった。イエスキリストを模した十字架のペンダントだった。私はこのタイにも仏教だけでなくキリスト教も伝道していた事を思い出した。私は直ぐ後ろを振り返ると先ほどまで私の後ろに居た3人が居なくなっていた。

辺りを見渡したが3人はその頂上付近には見当たらない。私はその時初めて自分が置いて行かれた事に気がついた。
私は「最初の道を帰れば、また先ほどの登り口に通じる」と思い直していた。しかしその考えは甘かった。帰ろうと思い振り返ろうとするが、体が硬直して動く事ができない。

亡霊との戦い

私が「金縛りだ。」そう気づいた時には遅かった。足の底が地面に張り着いたようになり引き返す事も身動きすらできない事を私は知った。足はガレ木が散乱する土の上に貼り付いて動かない。次第に私の体はがんじがらめの状態になって行った。すると何処から風が吹いて来たのか私の周りに突風が起きた。

風は周りのチリやゴミを巻き込み小さな風塵になった。小さな風塵が無数に私の周りを捕り包むように回り始めた。やがて5分ぐらいすると風塵が収まり私の金縛りが解けた。すると私を遠巻きにするように何十人もの人が私を囲むように現れた。

黒人、白人、それにタイ人であろう亡霊が大勢、私の周りを取り囲んで来た。私は心の中で「なぜこのような山奥に、なぜ大勢の死人が?」と思い始めた。金縛りが解けた私は人の群れの隙間を探すが大勢が互い違いに後方に居て逃げ出すにも道をふさがれて身動きできない状態だった。

私は「こんな時はお経だ。」と自分に言い聞かせると手を合わせ目を閉じてお経を一身に拝みまくった。しかし死人が近づく気配は一向に治まらない。「お経が効かない!!」どうすれば良いのか?思わず私は曇りかけた天を見上げ見つめてしまった。
亡霊の群れは私を囲み輪を狭めるように徐々に近づいてくる。取り囲まれた私は何処にも逃げる事ができない。私は「ウワー」という声と共にその場にしゃがみこんだ。

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ペンダントの効き目

その時。私は脳裏に光るペンダントの事が浮かんだ。ワラをもすがる思いで瓦礫に掛けていたペンダントを夢中で取ると両手で握りしめ目を閉じると心の中で祈った。「助けて下さい。助けて下さい。助けて下さい。」何回も叫びに成らないような声で命乞いをした。

すると死人の群れは私を捕まえることなく私をすり抜けて去って行った。震え上がり我に返り安堵すると私は思わずその場にしゃがみ込んでいた。だんだん死人の群れは遠ざかって消えた。私はペンダントを握り締めたまましばらくすると考える事ができるように落ち着きを取り戻していた。私は起き上がり一目散にその場から逃げ出した。

無我夢中で走った。先ほど来たジャングルの坂をくだり一気に大きな道路まで出るとそこには、私を置き去りにしたタイ人たち3人がいた。私は「お前たちあの亡霊を見たか?」日本語で問うとみんな口をそろえて「見てないが歌声は聞こえた。」と答えた。私は「お前たちの誰かあの教会の事、知っていたか?」と怒る口調で問い正すと3人とも首を横に振った。

私は「あの歌は呪いの歌かもしれない。あそこで焼き殺された人たちの呪いの魂が生きているのだ。」私は誰から教えられた訳でも無いのにそう口走っていた。なぜこのような憶測が私の口から飛び出したかはわからない。3人は「あの山は初めて登る山で何も知らない」と口をそろえて言い出した。私には「最初にいかにも知って居て、何回も登ったような事を言ってたくせに。」それを思うと私は言葉を失った。

老人の助言

すると道路を挟んで何時現れたのか?反対側の歩道から老人が近づいてきた。私があまり3人に向かい騒いでいるので不思議に思ったのだろう。

老人は4人に話しかけてきた。老人は「お前ら道路で何を騒いでおる。まさかお前らこの山に登ったのか?」と言うと真っ黒の皺だらけの顔が鬼のような形相になった。私はその顔を見ると今さっき見たことを老人に話した。

老人はそっ気無く「お前よく戻ってこれたな」と言うと、私を上から下まで眺めると睨め付けた。老人は「お前はタイ人じゃないな。」そういうと老人の顔は穏やかになり老人は「タイ人だったら今頃捕り殺されておる。」そういうと山の頂を見つめ「やれやれ。」と言うと4人を残し立ち去って行った。

山の上で何があったのか?それは私が体験した事からも明らかだが「昔の出来事を忘れ去りたいのか?」老人は語ろうとしなかった。このような場所はタイには多く点在しているのではないか?
この経験は私の脳裏に焼きつき消えることはない。ただの好奇心でタイの山に登ることは命すら落とす可能性があることを認識させられた。

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