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タイに憑いて来た幽霊

タイに憑いて来た幽霊

霊障

15年ほど前に起きた出来事です。当時私は駐在員をしていて日本とタイを時々往復していた。帰国すると1週間ほど休暇が出てどこにも行く事が無かったので家でゴロゴロしてるか、近くのパチンコ屋に出かけて暇つぶしをする毎日だった。

3日ほどしてパチンコの暇つぶしも飽きてきて昼ごはんを食べに街の食堂に出かけた。食堂でご飯を食べ終わり帰宅しようとした時だった。食堂の近所の道が騒がしく私はその騒ぎの中の人ごみに紛れた。騒ぎの方向に足を向けて500mほど向かうと火事場であろう光景が目に飛び込んできた。

大勢の野次馬たちは火事場の周りに集まっていた。私もその中の人ごみに混じり「暇つぶしにいい」と心の中で思い消火作業に見入っていた。当たりは消火のためのホースと消す為にまいた水、それと人ごみでごった返していた。私は火事の現場を見るのは初めてだったので興味深く、人ごみを掻き分け消火作業の先端まで進み出ていた。

繁華街のど真ん中の小さな料理屋が燃えたらしい。火は消し終わり柱の残骸から立ち込める煙が白く線香の煙のように天に昇っていた。しばらくすると救急隊員がタンカで煙でまかれて死んだであろう人を2名タンカに乗せて火事場から運び出されてきた。私の近くの野次馬が焼けた店の近所の店員らしく運ばれる死体が近くを通るとつぶやいた。「かわいそうに夫婦で焼け死んだか?気の毒に」と言ってタンカで運び出される死人に向かい回向していた。

乗り移られる前兆

運び出されて行く二人の遺体が私の目の前を通り過ぎる瞬間。一瞬私は白い布の中に私の魂が吸い込まれて行って自分が今タンカで運ばれているような錯覚を覚えた。しばらく私の目には真っ白な布に時々映る人影の姿が目に付いた。フーと息を着く様に私は深呼吸すると我に返った。

私はいつの間にか人混みから離れ家路に通じる道に向かっていた。帰宅した夕方から私の両肩が重くなり痛み出した。痛みは激しくなり風呂に入り痛みのある箇所をもんだりしたが直らなかった。しかし翌日になると肩の痛みは風呂でのマッサージが効いたのか痛くなくなっていた。

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しかし首のところが重くのしかかられるように新たな重みを感じ始めた。私はまた「日にちが過ぎれば直る」と考えて気にも留めなかった。瞬く間に一週間が過ぎた。私は休み明けに会社に出向くとタイへの出向を命じられた。気ぜわしく着替えや作業着を準備し空港に向かう私の足取りは重かった。

タイの空港に着くと暑さとまた明日からの仕事のプレッシャーから首の重みなどすっかり忘れていた。10日が過ぎたころ仕事に余裕が就くと、ようやく2日の休暇が会社より出た。私はタイでは仕事するのが精一杯で今まで休日はどこにも遊びに行くことは無かった。

束の間の休日

初めて地元のワーカーに案内されて大きなお寺に案内された。金色のバコタを眺めたり遺跡めぐりをすると少しの間仕事を忘れた。そしてあるお寺に行くとワーカーは「この寺は病気を治す寺です。」と教えてくれた。ワーカーは「進さんどこか痛いところや病気の箇所を仏様の体の同じ部分をさすると仏様が痛みや病気を吸い取ってくれますよ」と言った。

私は日本で首や肩が痛かったのを思い出し仏様の左肩や右肩と首をさすり祈りをささげた。いつの間にか寺院の中を歩くと人混みに紛れてしまい案内人のワーカーからはぐれ、お寺の裏の僧侶が寝泊りする高床式の住居の前に来ていた。振り返り戻ろうとすると木陰で本を読んでいた年取った僧侶に声を掛けられた。老僧は「そこの若いのこちらに来て少し私と話をしませんか?」と流ちょうな日本語で話しかけてきた。

私はタイに来て現地人それも僧侶から日本語で話しかけられるは初めてで物珍しさもあり、戻ろうとした道を逆に僧侶に近づいて行った。老僧はシワクチャナ顔で私を下から見据えると話しはじめた。老僧は「少し私と話をしませんか?」とまた言ってきた。好奇心から私は僧侶と話し始めた。私は「どうしてそんなに日本語が上手なのですか?誰から習ったのですか?」と立て続けに質問していた。

老僧はちゅうちょする事無く話し始めた。「昔日本軍がタイに着た時、私は普通の若者で通訳をするとお金が普通の人より貰えると判り日本兵から一生懸命習ったのです。」と話してくれた。また僧侶は懐かしむように、私の目を見て話はじめた。「日本兵が引き上げると今度はイギリス軍がやって来て今度は英語を教えていった。しかし日本は仏教国でイギリスはキリストだ。どっちが良いかと言ったらやはり土地に根を下ろしていた仏教を私は選んだ。それで私くらいの年の人は対外日本語を話せるようになったのじゃよ。しかし今は自分が見て良さそうな人以外はめったに日本語でしゃでったりしない。」と言うとまた経本であろう本を読み出した。

私は「色々有難うございました。大変ためになりました。」と丁寧に頭を下げた。すると老僧は「あんたは良い人じゃ。ひとつあんたを助けてやろう。」と言うと曲がったこしをさすりながら起き上がると老僧は「私と一緒にそこの部屋まで着なさい」と言うと、先にたち高床式の階段を一段また一段登り始めた。その姿は5年前に死んだ私のおばあさんの後ろ姿に似ていた。

老僧の御払い

後を着いて登ると薄暗い部屋の中には小さな仏壇があり、その扉が開いていて中には金色に輝く小さな仏様があった。私は「どうして助けてくれるのか」その理由が判らないまま老僧の後ろに座った。仏壇の前に座り直すと老僧は「お前さん肩はこらないか?左肩は痛くないか?首はどうじゃ?」と立て続けに尋ねられた。

私は「その通りです。一週間ほど前から肩が痛くて左腕が上げられないぐらいでした。首も痛くてたまりませんでした。」と答えた。老僧は振り返り私の目や顔、肩の辺りを見て話した。

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「お前さんを見て私が呼んだのはその肩に二人の霊が着いて離れていかないのが見えたからじゃ」老僧は「お前さんは霊能力が強い。だから霊も憑きやすい。これからその霊を除霊してあげようと考えている。どうかな?」と言うと後ろに座った私に向かい聖水をふりかけ拝み始めた。

その途端。私の肩は重みが増して行き「ガクン」と肩が下がると同時に物すごい痛みと重みを感じはじめた。次の瞬間。何処から聞こえて来るのか「ギャー」と言う声がした途端。私の肩は嘘のように軽くなった。老僧はお経が終わると振り返り「どうじゃ?」と問いかけてきた。私は「あの「ギャー」と言う声は誰ですか?何の声ですか?」とたずねると、老僧は「お前さんについていた、男女二人に老人の霊じゃ。どうやら日本からタイまで着いてきたようじゃ。もう心配要らない。退散したからな。もう肩は痛くないじゃろ」と言うとしわくちゃな顔に笑みを1杯浮かべて老僧は私を仏壇のある部屋に残して奥の暗い部屋へと立ち去っていった。私を残しそれっきり出てこなくなった。

闇に消えた老僧の後に

10分ぐらい居ただろうか?老僧が居なくなった事が判り部屋を出て玄関先に行くと私からはぐれたワーカーが探しに着てくれていた。私は門前で深々と挨拶をしてワーカーと一緒に帰宅した。それから一週間。肩と首の痛みは無くなり快適に仕事をこなす私が居た。私は老僧にお礼がしたく、ワーカーたちにタイの慣わしを聞いた。

次の休みの日。老僧にお礼をしようと色々な引き出物を買い込み、あのお寺に向かった。私はお寺に着くとあの老僧が居るであろう所をくまなく捜しまわった。しかしどこにも老僧は居なかった。私は最後にあの最初に出会った僧侶の家の場所に行くと別のお坊さんがめがねを掛けて前の老僧と同じように木陰で本を見ていた。

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私は除霊してくれた老僧の事を日本語で尋ねた。やはり僧侶は前の老僧と同じように日本語がうまかった。色々話してると若い僧侶は「その老僧は私の師匠かもかもしれない。」と言い出すと私の先に立ち寺の奥へと案内してくれた。こないだ行ってない本堂の奥の部屋に案内された。

そこにはまさしく私が一週間前に除霊をしてくれた老僧の座禅を組んでる姿の蝋人形が置かれていた。弟子の僧侶は、その蝋人形に丁寧に挨拶すると話し始めた。弟子の僧侶は「私の師匠は15年前に死にました。その業績をたたえる為にこのような蝋人形やお守りを作り偉業をたたえているのです。」僧侶は「どうしてあなたの前に現れたかは知りません。しかしながらあなたについていた悪霊を払いあなたを助けた事は事実です。生前も同じでした。自分の身を帰りみず多くの人を助けた私も見習わなくてはいけないが中々できない。」と話すと拝み始めた。

私は「幽霊から幽霊を除霊されたのか?」その不思議さが心に残った。私は老僧の蝋人形のシワクチャナ顔を見つめながら教えてくれた僧侶の後ろで回向し続けた。

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