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タイの通り雨

タイの通り雨

通り雨(スコール)

またあの通り雨(スコール)の次期がやってきた。あれはもう10年前になる。あの日を思い出すたびに空を見上げてしまう。私は当時45歳だった。働き盛りでタイ王国に赴任してきた。毎日忙しくアパートに帰宅するのは何時も早い時間で21時。エレベーターに乗ると中に据付の扇風機がブンブン耳障りな音で回りだす。その音を聞きながら10階にある自室に向かう。

ドアの前に着くと何時からか毎日のように私の口からため息が漏れる。「フー」重い鉄の扉を開けると回りには「ギー」と開く音が響く。このアパートはもう築10年以上も経っている。周りには新しいアパートが建ち、そちらに移り住む人が耐えない。もう私の居る10階は私しか住んでいない。そんな事を考えながら中に入ると真っ暗な世界が広がる。カーテンが閉まっているせいもあり手探りで明かりを探す。壁際のスイッチに手がかかり一気にスイッチを押すと次々に時差を置いて天井の明かり、壁際の明かり、廊下の明かりとついてゆく。

荷物を置くと真っ直ぐにリビングと台所の境にある冷蔵庫に向かい扉側のビールを手にする。ビールを一気に飲み干すと「グラリ」と頭が揺れる。アルコールが一気に胃袋を通り越して疲労した脳に一気に回る。

バルコニーに子供が?

先ほどから降り始めた雨の仕業かバルコニーの方が騒がしい。雨音の中に混じり子供の声が聞こえる。最初は気のせいかと思ったが「キャハハハ」と言うハシャグ声が聞こえたような気がした。私はバルコニーに向かい戸のカーテンを一気に開けた。窓越しに5歳くらいの子供が雨の中はしゃいで居た。雨の中はしゃぐ子供を見るとどうしてこの10階のバルコニーに居るのかと考えていた。怖さはまるで無く時より強く振る雨の中、楽しそうに長靴を鳴らして水を弾き飛ばす姿が可愛く感じられた。

いつの間にか窓を開けると私はその5歳くらいの男の子に私は違和感も無く話しかけていた。「こんな雨の中ずぶぬれで風邪を引くじゃないか?」すると子供は「パパ。中に入れてよ。僕寒いよ。」そう言うか言わないうちに部屋の中入るとまっしぐらに寝室に向かい走り出した。そのしぐさや態度はまるでこの家が自分の家のような態度だった。私は「何だこいつ。初めて会うのにパパか躾がなってない奴だ。」酔いが回って疲れている私にはそのくらいの考えしかわかなかった。

Alexas_Fotos / Pixabay

子供を中に入れると酔いのせいもあり色々質問したがずぶ濡れの体や服を着替えさせる事が先と思い、ずぶ濡れの服を脱がせシャワーを浴びさせた。風呂から上がると私のパンツやTシャツを着せた。子供の相手をして居る間に22時を回り腹が減ってきた。冷蔵庫をあさり食べられそうな物を全部レンジで暖めた。

それからテーブルに置くと次々と私がビールを飲んでる間に、その子供はおかずを平らげてしまった。底なしのように喰らう子供。まるで飢餓を見てるようだった。私は3本目のビールを飲み終わるころには冷蔵庫の一週間分の食料が無くなった。男の子の腹はパンパンに膨らみもう食えないと言ってるかのように見えた。子供は私の顔を見ると微笑んで「パパ、ヤッパリ何時も優しいね。」と言うと子供は「5年間飲まず食わずで居たから腹が減って死にそうだったよ。」そう言うと次は寝室に向かい駆け出した。

酔いの中で

私は思考能力がアルコールの性で鈍り子供の言葉を聞き流していた。私は食い散らかした物をゴミ箱に捨てると寝室に向かった。子供はベットの上でジャンプしてはしゃぎ回っていた。子供は「ふかふかのベットだね。」と言うと横になりあっという間に寝てしまった。その寝顔は私にどこか似ていた。バルコニーをガラス越しに見るといつの間にか通り雨は上がっていた。バルコニーには大きめの長靴が脱ぎ散らかっていた。そろえて家の中に入れて乾かした。いつの間にかAM12時だった。子供は明日交番に届けようと思いシャワーを浴びてソファーに横になるといつの間にか寝てしまった。

朝の日差しが目に当り、目を覚ますと子供をベットに寝かせた事を思い出し部屋に行くがもう何処にもあの子は居なかった。ただバルコニーの戸の前には昨日並べて置いた大き目の長靴が置いてあった。私は夢ではなかった事を確信すると時間に追われ仕事に出かけて行った。アパートの外は昨日の通り雨で水溜りがあちこちに出来ていた。工場に着くと子供の事など忘れていた。

MichaelGaida / Pixabay

残業を終え帰宅して何時ものドアの前に立つと、なにやら話し声が聞こえる.私は鍵を開けて急いで中に入った。TVが点きっ放しだった。その音がドアの外にも漏れていた。少し安心するとTVを消した。すると何時来たのか?ソファーには昨日の子供が。

こちらを見るなり抱きついてきた。「パパ、待ってたよ。何処行ってたんだよ。寂しかった。またご飯食べたいよ。」そう言うと私にしがみ着いてきた。私は呆然としていた。「何処から入ってきたのか?何処から帰ったのか?」物悲しく抱きつかれた私は、何も抵抗が出来なくなっていた。抱きつくのを止めると私の気持ちが判ったのか、今度は窓の方に私の腕を取り引っ張って行った。何時降り出したのか、また通り雨が降っていた。子供はガラス戸を開けると私の手を引き通り雨の中に連れ出した。雨は強く降ったり弱く降ったり外の闇の中でまるで私に話しかけるように雨音が耳に響いていた。

子供の行くへ

子供は「パパ。まだ僕の事わからないの?」と声をかけてきた。私はその言葉にジーと雨にぬれる子供の顔を見つめた。すると子供は悲しげな目で私を見上げると私は何時しか子供の目の高さにしゃがんでいた。その途端。私の意識は無くなって行った。「パパ、パパと私を呼ぶ子供の声がした。」私は目を開けるといつの間にか雨が上がり深い霧に包まれた中に私は居た。

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子供は「僕の事本当にわからないの?」子供は必死に声をかけてくる。すると霧の中に遠い昔に過ごした彼女が私に寄ってきた。何処から話すのか私の耳のそばに女の声がしていた。霧の中の彼女は「この子あなたの子よ。名前も無いけど間違いなくあなたの子供よ。」そう言うとまた霧の中に消えて行った。私の腕を引く子供の方に首を傾けると私を見てにこやかに微笑んだ。「パパわかった。僕の事。」そう言うと霧が子供を包み消えて行った。

char_ttt0 / Pixabay

我に返ると一人。通り雨の中バルコニーで倒れている私が居た。もう私の周りには子供の姿は無かった。昔別れた彼女も夢に出てきた。現実かまぼろしか?通り雨に打たれて思い出した彼女。やけに懐かしくなり電話をした。そして私は話した。「お前と私の間に子供が居たのか?」と聞いた。すると彼女は電話口で泣き出した。その声を聞くと私は全てを悟った。

彼女に「何時子供を降ろしたのか?」聞くと「あなたと別れた5年前」と言う声がした。私は「どうして降ろした」と言おうとしたが通り雨の音にかき消されていた。私は子供が残した長靴を手に取ると墨で塗りつぶしたような空を見上げて雨の中泣いた。

あれから10年私には女の子が出来た。その子も、もう5歳。あの通り雨の子と同じ年だ。私の周りではしゃぎまわる娘とあの男の子の顔が重なった。また遠くでは通り雨の雨音が聞こえ出した。

タイでは法律で子供を降ろす事は禁じられている。

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