スタジアムに入ると、ピッチでは両チームの選手たちがゆっくりと汗を流し始めていた。キックオフまで約1時間。バックスタンド中央に陣取るブリーラムサポーターを除いて、スタンドにはまだ空席が目立つ。
決戦の時が迫ると、ブリーラムイレブンが姿を現しバックスタンドへと向かう。肩を組み合い、サポーターたちと勝利を願う歌を奏でる。
バックスタンドいっぱいにチームフラッグとタイ国旗が広がり、いよいよキックオフの時。巨大な国旗は、タイ代表として戦う国際大会ならではの光景だ。
前半、ブリーラムは先制点を奪うもロスタイムに同点弾を浴びてしまう。後半は1対1の均衡が続き、重苦しい空気が漂い始めたころ、再びスタジアムは歓喜に包まれた。フリーキックからの勝ち越しゴール。そして、歓喜と失望と息苦しさが渦巻いたスタジアムを解き放つ試合終了のホイッスルが鳴った。
選手、スタッフらがセンターサークルを外向きに取り囲んで、サポーターと喜びを分かち合う贅沢な時間。
試合後、スタジアムを出て町の中心部へ戻ろうと足を探すが、バイクタクシーやトゥクトゥクなどの姿は見当たらず、町へ向かうソンテオなどが出ていないかと尋ねても「何もない」という。
少しずつ人影も少なくなり途方に暮れていると、スタジアムの入口付近、決戦を終えたニュー・アイモバイル・スタジアムに向かって手を合わせるユニフォーム姿の中年男性の姿が目に入った。
何か町へ行く手段はないかともう一度尋ねてみると、「送って行ってあげるよ」と即答で返ってくる。スタジアム前に停められていた古い型の日本車に乗せてもらい、どうにか鉄道駅近くの宿に辿りつくことができた。
翌朝、ホテルを出て駅方面へ歩いていくと、バンコクとイサーンをつなぐ鉄道が通過するのを駅の裏手から間近に見ることができた。
線路を横切って駅の表側へ出ると、駅前には三輪自転車とトゥクトゥクがそれぞれ数台ずつ待ち構えていて、シンボルの時計台が際立っている。あまりの長閑な朝に、昨夜のスタジアムの熱狂がウソのように思えてきた。
駅の構内へ戻って列車の時刻表を確認してみたがちょうどいいものはなく、駅前の三輪自転車をつかまえて、バンコク行きの長距離バスに乗るため再びバスターミナルへ向かうことにした。
(了)