意外に楽しい子育て。仕事との両立に挑む内田美和さん

タイで働く女性たち

「タイで子育てができてよかった」

「おばちゃん、ちょっと買い物行くから子供を頼むわね」
「あいよ、行っておいで。さあ、鳩(はと)ちゃん、こっちへおいで…」

バンコク北部の住宅街で一人息子の鳩君(2歳)と暮らす内田美和さんは、今日も近所のおばさんの家に息子を預け買い物に出る。「いつでも連れて来なさい」。子どもが生まれた時からそう言われていたが、初めのうちは遠慮することも少なくなかった。

今ではすっかり商店街にも馴染み、半日近く鳩君の面倒を見てもらったことも。最近はオレンジ色のベストを着たバイクタクシーのお兄さんまでもが声をかけてくれる。「タイの人は子供がとても好き。タイで子育てができてよかった」

日本にいた時、電車やバスで子供連れの母子に席を譲った記憶がほとんどない。でも今はタイで譲られる立場。「自分がそういうことできなかったのに、申し訳なく思っています。ありがたいことです」と話す。

英国留学、そしてコーディネート会社に就職

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横浜市の出身。日本で短大を卒業後、イギリスの大学に留学。経営学を学んだ。英語を取得して帰国。コーディネート業の会社で3年半ほど働いた。小さい会社だったが、貴重な経験を積んだ。

「ふだん会えない人に会えた」。国際的に著名な航空会社の会長、宗教法人のナンバー2、東証一部上場の大手食品会社の会長…。誰もが皆とても魅力的だった。「成功した企業団体のトップに立つ人は周囲を良く見ている。視点が違う」。人を見る目が洗われたような気がした。

キックボクシングが好きで、以前からたびたびタイを訪れていた。タイ人の友人から「英語ができるのだから、こちらで仕事をしたらどう?」と誘われ、海を渡る決心をした。2007年11月のことだった。

タイに来て初めに勤めたのが日系の電子部品販売会社だった。肩書きは企画担当兼社長秘書の現地採用社員。日本から期限を切って赴任する駐在員と現地タイ人スタッフとの橋渡し役。仕事は予想以上に「きつかった」

駐在員とタイ人スタッフとのはざまで…

タイ人スタッフの輪に入っていく駐在員もいたが、垣根を設ける人も少なくなかった。現地スタッフからの要望を伝えても、「どうして、そんなことをしなければならないんだ」と逆にたしなめられたこともあった。

いろいろな思いをしたが、一つだけ確実に言えるのは、「一つの仕事の回りには、視えないたくさんの仕事がある」ということ。「はみ出た仕事」と言ってもいい。「貴方の仕事はここからここまで」では、人は付いてきてくれないと思った。

タイ人の同僚が漏らした言葉も印象的だった。「どうせできないだろうと、1から10までタイ人をコントロールしようとする日本人のほうがおかしい」。そのとおりだと思った。留学した先のイギリス人だって時間にルーズだった。街の汚さもバンコクに負けてはいなかった。

何となく消化不良を起こし、仕事を改めようと決心した。タイに来てから4年半が経過していた。でも、大きな会社で仕事ができたことは良い体験となった。異国での人と人の接し方はとても勉強になった。

「私にも子育てができるんだ!」

現在は、バンコクに本社を置く「SCS TRADING社」で社長付アシスタントの仕事に就く。サッポロビールの総代理店でもある酒類卸業の会社。社長のスケジュール管理からオーダーの処理、営業会議の取りまとめまで何でもこなす。

シーロムにあるアンテナショップ「e-Shochu」にも時折、顔を出す。名前のとおり、日本各地の著名な焼酎や日本酒を取り揃えている。午後5時から8時までは店頭での「立ち飲み」も可能だ。

しばらくは今の会社に勤めたいという内田さん。未知だった卸売業の仕事にも慣れた。持ち前の明るさと語学力でタイ人同僚との会話も弾む。「仕事は忙しいほうがいい」

息子の鳩君を地元の保育園に送ってから会社に向かうのが日課。間もなく3歳になる鳩君は、もう立派に日本語とタイ語を話すなど、成長ぶりは目を見張るばかり。「私にも子育てができるんだ。子育てって、意外と楽しいな」。最近、そう思える自分がいると感じている。

タイで生活する日本人は最新の2012年統計で約5万人。企業などの駐在員や永住者、その家族などが多くを占め、滞在する男性の多くが仕事を持って暮らしている。女性についてはビザの関係から就労が難しいと一般的に理解されているが、実は、働く女性は決して少なくない。新企画「タイで働く女性たち」では、タイで仕事に就き、活躍する女性たちを追う。

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